遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 問題 自宅の住居表示を書いた不動産は、建物だけなのかその敷地を含むのか?
2 原審判決
原審の東京高裁平成9.12.10判決は、①遺言書に記載されたものは住居表示であり、文字どおりに解するならば、同所所在の建物と解すべきことになる。②この遺言書作成当時の事情によれば,遺言者がその敷地の権利まで遺贈する真意を有していたと解することはできない。③これらを総合すると,遺言者は、建物のみをAに遺贈したものと解すべきである、判示しました。
3 最高裁判決
最高裁平成13.3.13判決は、①本件遺言書には遺贈の目的について単に「不動産」と記載されているだけであって、本件土地を遺贈の目的から明示的に排除した記載とはなっていない。②一方、本件遺言書に記載された表示は、遺言者が永年居住していた自宅の所在場所を表示する住居表示である。③そして、本件土地の登記簿上の所在、本件建物の登記簿上の所在とも、本件遺言書の記載とは一致しない。④そうすると,本件遺言書の記載は、遺言者の住所地にある土地及び建物を一体として遺贈する旨の意思を表示していたものと解するのが相当であるる、と判示しました。
その上で、最高裁は、高裁の判決理由の②について「遺言書作成当時の事情を判示してこれを遺言の意思解釈の根拠としている点について、遺言書の記載自体から遺言者の意思が合理的に解釈し得る本件においては、遺言書に表われていない事情をもって,遺言の意思解釈の根拠とすることは許されないといわなければならない。」と判示しました。