遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 事案
Aは「Bを遺言執行者とする。」と書いた遺言書(第1番目の遺言書)を作成しました。
そしてその1ヶ月後、Bに対し「遺産は一切の相続を廃除し、公共に寄興する。」と書いた遺言書(第2遺言書)を渡しました。
Aの死後、Bは遺言書2通につき家庭裁判所で検認してもらいました。
その後、Aの妹2人が遺言者の不動産につき相続登記をしましたので、遺言執行者であるBはAの妹2人に対し、相続登記の抹消登記手続を求めて訴訟を起こしました。
2 遺言の解釈
ここで、「遺産は一切の相続を廃除し、公共に寄興する。」という遺言書の解釈が問題になったのですが、原審も最高裁平成5.1.19判決も、この遺言は、Aが公共目的を達成することのできる団体等に財産のすべてを包括遺贈する趣旨で書かれたものだと判示し、かつ、受遺者の選定は、遺言執行者であるBに委託したものだと認定し、遺言執行者を勝たせました。
Aの妹たちは、遺言書の「公共に寄興する。」という遺言の内容だけでは、受遺者は特定されていない。仮に、受遺者を遺言執行者が選定できるとしても、選定の基準が明確ではないので、遺言は無効であるなどと主張したのですが、最高裁は、遺言の趣旨は、遺産の利用目的が公益目的に限定されていること、受遺者として選定される範囲も、公益目的を達成しうる国、地方公共団体、民法に基づく公益法人や学校法人、社会福祉法人等に限定されることになるから、遺言の効力を否定することはできないと判示したものです。