遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 A女の熱い思い
A女は、婚姻し凹川A女から凸山A女に姓も変わりましたが、子に恵まれず、年をとり、嫁ぎ先の家名凸山家を残すため、自分の兄弟姉妹の子(甥・姪)の中から、養子を迎えたいと考え、長年にわたり複数の姪と養子縁組の交渉をしてきましたが、その思いが実ることなく亡くなりました。
2 死後発見された遺言書の内容
凸山A女が残した遺言書には
「第1相続人B(注:姪の1人)を指定、第2相続人C(注:これも姪の1人)を指定。右の第1相続人不承認の場合は第2相続人とする。第2相続人も不承認の場合は兄弟姉妹甥等で財産を処分することなく右の方々で相続人を選定し凸山家を再興をお願いします。」と書かれていました。
3 遺言の解釈が争いになった
この遺言は、法律が認めていない「相続人の指定」なのか、「B又はCに対する遺贈」なのか、あるいは、「他の遺言事項」に該当するのか?
4 判決
東京高判昭60.10.30は、この遺言は、凸山家の再興を要請している文面からして、A女の相続人を指定する遺言であるから、無効であると判示しました。
5 遺言者の意思をできる限り生かす解釈
最判昭58.3.18は、「遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。」と判示し、遺言者の真意を探り、できるだけ遺言を有効にすべきとする姿勢を明らかにしましたが、この事件では、遺言者の意思が、凸山家又はA女の相続人の指定であることが明らかですので、これを有効だとする余地はないものと思われます。