遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 遺言の解釈
法律家でない人が書いた遺言の内容が、一義的に明確と言い難いとき
そのようなときに、遺言の解釈が問題になります。
2 遺言の指針を明示した最高裁判例
最判昭58.3.18は、原審が「跡継ぎ遺贈」は無効であると判示した事案で、遺言者の真意をさらに探れとして、その件を原審に差し戻し、遺言の解釈の指針を明示しました。
すなわち、この事件は、遺言者が、「妻にある不動産を遺贈する。」(第1次遺贈)と書いた後、「妻の死亡後は、兄弟姉妹に・・・の割合で、権利分割所有する。」(第2次遺贈)旨書いたものでしたが、原審は、遺言者には、妻に遺贈した後妻が死亡した後のことまで相続財産を処分する権限はないことから、第1次遺贈は有効だが、第2次遺贈は、単に遺言者の希望を書いたに過ぎないもので無効であると判示したのですが、最高裁は、3で述べるような遺言の解釈指針を明示して、「妻に、その不動産を遺言者の兄弟姉妹に移転すべき債務を負担させた負担付き遺贈」と解するか、また、「兄弟姉妹らに対しては、妻死亡時に本件不動産の所有権が妻に存するときには、その時点において本件不動産の所有権が兄弟姉妹らに移転するとの趣旨の遺贈」であると解するか、更には、「妻は遺贈された本件不動産の処分を禁止され実質上は本件不動産に対する使用収益権を付与されたにすぎず、兄弟姉妹らに対する妻の死亡を不確定期限とする遺贈」であると解するか、の各余地も十分にありうるので、原審としては、本件遺言書の全記載、本件遺言書作成当時の事情などをも考慮して、本件遺贈の趣旨を明らかにすべきであつたといわなければならない、として原審判決を破棄し、事件を検針に差し戻したのです。
3 遺言書の解釈指針
前記最高裁判決は、「遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。」というものです。
4 その後の最高裁の判決にも引用される有名な判決
この判決は、その後、最高裁判所判決の中にも多く引用され有名な判決になりました。遺言の解釈指針として確定した判決と言えます。