遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 先妻の子と後妻が相続人の場合で、遺産は預貯金と自宅のみという場合の、自宅使用権設定の遺言
【遺言文例】
一 私は、妻○子が老後安心して生活できるように、預貯金のすべてと自宅において終生無償で(固定資産税の負担もなく)生活できる自宅建物の使用貸借上の権利を含む次項に記載した財産以外の財産をすべて相続させる。ただし、必要な修繕費は、妻が支出すること。
二 長男には、自宅の土地建物の所有権を、妻○子に前項の使用貸借上の権利を与える負担付きで、相続させる。
三 私の本意は、妻の老後のため、すべての遺産を妻に相続させることにあるが、長男には遺留分の権利があるので、それを考慮して、以上を遺言する。
長男は、私の本意を尊重し、なさぬ仲ではあろうが、妻の死後は自宅は完全に長男のものになるのであるから、我慢し、さらに妻に孝養を尽くして欲しい。
2 妻に財産のすべてを相続させる、と遺言を書いた場合のリスク
その場合は、長男が遺留分減殺請求権を行使できることになり、それを行使すると、長男が自宅の土地建物の1/4の権利を取得して妻と共有することになります。その場合の共有は遺産共有の状態ではなく、通常の共有物における共有になるというのが判例ですので、長男から共有物分割請求がなされたときは、妻は自宅に住めなくなる可能性があるのです。それは、共有物分割請求の場合、遺産分割の場合と違って、妻に使用貸借権の設定という分割方法は認められていないからです。
前出の遺言文例は、このようなリスクを回避するため、長男から遺留分減殺請求権を行使させないことを狙いにしたものです。