遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
【遺言文例】
私は、財産のすべてを妻○子に相続させる。
1 この意味するところ
この遺言は、相続人間で遺産分割協議をするまでもなく、被相続人の全財産を配偶者に相続させる効果があります。
2 遺言執行者は必要がない
全財産を包括して特定の相続人に相続させる遺言は、遺言の効力が発生したとき(つまりは被相続人である遺言者が死亡したとき)、被相続人の財産全部が、当然に特定の相続人(この文例では「妻」)に移転しますので、遺言の執行は必要ではないので、遺言執行者を指定する文言は不要です。
3 この遺言の問題点
他の遺留分をもった相続人(相続順位1位の「子又は代襲者」又は相続順位2位の「直系尊属」)がいる場合は、その相続人から遺留分減殺請求を受けるおそれがあることです。
それに備えて、次のような予備的遺言を書いておけば、混乱を避けることができます。
【予備的遺言文例」
もし長男又は長女から、あるいはその双方から妻に対し、遺留分減殺請求権の行使がなされたときは、長男又は長女には、下記の土地を与える。もし、長男と長女双方から遺留分減殺請求権の行使がなされたときは、長男には下記の土地を相続させ、長女には、B宅地を相続させる。
4 予備的遺言文例を書く理由
これを書かないで、遺留分減殺請求権が行使されたときは、すべての遺産が、妻と遺留分減殺請求権を行使した相続人の共有になるからです(ただし妻は価額弁償ができますが)。この共有は遺産分割の対象になる遺産共有ではなく、共有物分割対象の共有になりますので、1つ1つの遺産について分割を求められることになり、解決が困難な争いになる可能性があるのです。
5 他に書いておくべきこと
妻に全財産を相続させる理由や遺言者の思い、と、長男と長女に遺留分減殺請求権を行使しないことの要請文を書いていくことは重要です。
また、長男や長女に、生前、贈与した財産があるときは、それも具体的に特定して書いておくべきです。
【文例】
長男も長女も、私の妻、お前達の母に対しては遺留分減殺請求権を行使しないで欲しい。もし、それをした場合は、私が平成○○年○○月○○日に長男に、私の△△銀行にあった定期預金を解約してA宅地を買い与えているので、それを計算に入れた遺留分侵害額を算定しなければならない。