遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
相続財産を遺産分割時の価額で算出して、そこから各相続人の取り分が金額で表すことができると、遺産分割に入れます。
遺産分割は、①現物分割、②代償分割、③換価分割の方法があります。
⑴ 現物分割
不動産は全部甲が取得し、動産はすべて乙が取得し、株式その他の有価証券は丙が全部取得する、という分け方等が現物分割です。
甲は全財産を取得し、乙と丙は何も取得しないという分け方も現物分割です(審判ではこのような遺産分割はできませんが、協議でならできます)。
要は、現物分割は、遺産分割の対象となる相続財産を、相続人の間で分けることなのです。
・遺産を共有にする分割も現物分割
①現物分割が困難であり、②代償金を支払う能力がない場合で、③換価分割が相当ではないとされる場合に、遺産の一部を共有にする審判例が結構あります。
鳥家審昭39.3.6は、遺産の大部分が農地であり現物分割による細分化は望ましくなく、相続人に代償金を支払う能力はなく、農地を換価処分しても適正な価額で処分できるか疑問があるとされた事案で、相続人をグループ分けして、グループ毎の共有による取得をさせています。
福家審昭46.4.27は、先妻の子グループがある特定の相続財産を共有し、後妻の子グループが別の相続財産を共有する内容の審判をしております。
一方で、東高決平2.6.29は、遺産全部を共同相続人全員の共有にした原審家裁の審判は、紛争解決の先送りであり不相当とだとして取り消しました。また、東高決平3.10.23決定は、遺産の一部を相続人全員の共有にした原審の審判を、そうした理由や事情が不明だとして取り消しています。
・使用権を設定する現物分割
東家審昭52.1.28は、土地建物を配偶者に取得させ、配偶者から子に建物を賃貸させた上で、配偶者から子に代償金を支払わせる遺産分割の審判を下しております。また、高松高決昭45.9.25は、敷地部分をAに、建物をBに遺産分割として与えた上で、Bは審判確定の日より20年間敷地を無償で使用させる、との決定をしました。
⑵ 代償分割
・代償分割の意味
代償分割とは、相続人の一部の者が現物を取得し、他の相続人には、その現物を取得した相続人が一定の金銭を支払うという分割方法です。
・代償分割の審判が出来る場合
大阪高決昭54.3.8は、
① 相続財産が細分化を不適当とするものであること
② 共同相続人間に代償金支払いの方法によることにつき争いがないこと
③ 当該相続財産の評価額がおおむね共同相続人間で一致していること
④ 相続財産を取得する相続人に債務の支払能力があること
に限られると判示しています。
なお、④の資力要件は絶対に必要な要件です。また、代償分割の審判をする場合は、代償金を支払う相続人に資力があることを、審判書の中で明らかにする必要があります。代償分割をした高裁決定を、金銭の支払能力がある旨の説示がなく、その事件の記録を精査しても,支払能力があることを認めるに足りる事情はうかがわれないとして、更に審理を尽くさせるため,原審に差し戻した最決平12.9.7があります。
・代償金支払い債務は分割払いが認められる場合がある
神戸家尼崎支審昭48.7.31は、債務を年5分の利息を付けて5年間で支払う内容にしました。新潟家審昭42.7.31は10年割賦にしました。東京家庭裁判所昭和50.3.10審判は、抵当権付きで、弁済に1年半の猶予を与えています。
⑶ 換価分割
・換価分割とは、遺産分割の対象になる相続財産の全部又は一部を売却して、売却代金を分け合う遺産分割の方法を言います。
・換価分割は、終局審判でもでき、中間処分でもできる
家庭裁判所が審判で換価分割をする場合は、①終局審判で、遺産の競売とその代金を分配する基準を明示する方法、②換価する遺産の外にもなお分割対象の遺産がある場合は、中間処分として、まずは換価対象遺産を換価処分して、売却金を他の遺産に加えて、終局審判で遺産分割をする方法もあります。
・換価の方法としての競売と任意売却
換価の方法としては、①任意売却と②競売による換価処分があります。
・審判による換価処分ができる要件
① 現物分割が困難であること
この中には、狭小な宅地、間口の狭い宅地など物理的に分割が困難である場合の外、現物分割は可能ではあるが、そうするとその財産そのものの価値が落ちる場合を含まれます。
② 全相続人が代償金を支払う能力がないこと(新潟家三条支審昭41.12.8)
なお、代償金を支払う能力に疑問がある上、代償金算出のための鑑定評価額について問題点があるとして換価分割を言い渡した大分家審昭50.7.18もあります。
③ 当事者が換価処分を希望していること、あるいはやむを得ないものと納得していること(広島高決平3.9.30)等があります。