遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
資産と負債
被相続人が遺した財産には、積極財産と言われる「資産」と消極財産と言われる「負債」があります。
一 資産
1 資産の内訳
資産には、祭祀の主宰者が承継するは「祭祀用財産」と、相続人が相続する「相続財産」と、誰も相続しない「帰属上の一身専属権」があります。
2相続財産の内訳
可分債権とそれ以外の資産
相続財産は、不動産(土地・建物)、不動産上の権利(借地権等)、現金、預貯金、有価証券(国債・株式・投資信託)、事業用財産、家具、書画・骨董品等の資産ですが、相続財産には、共同相続人の共有になるもの、したがって遺産分割の対象になるものと、相続人が相続分で取得する預貯金などの可分債権があります。
預貯金などの金銭債権について
預貯金(ただし定額郵便貯金を除く)や貸金などの金銭債権は、遺産分割の協議をしなくとも分割が可能な性格を持っています。例えば、100万円の預金です。これは2人の子が相続する場合、50万円ずつに分けることが可能です。このような債権は分割が可能な債権という意味で「可分債権」といわれます。
最判昭29.4.8は、可分債権は遺産分割協議をしなくとも、当然に分割されているので、相続人は直接、銀行などの債務者に対し、自分の相続分に相当する金額を請求できると判示しています。しかしながら、定額郵便貯金は郵便貯金法で分割が禁止されていますので可分債権ではなく、各相続人が相続分で分割して取得することはできません。ですからこれは遺産分割の対象になります(最判平22.10.8)。
二 負債の相続
負債とは、借入金、未払い金、公租公課、敷金、保証金の預かり金、保証債務、連帯債務などがありますが、相続税は負債ではありません。
1可分債務なので、相続分に応じて分割された金額を相続する。遺産分割の必要はない
⑴ 遺言がない場合は、各相続人が法定相続分で分割して負担する
負債は、遺言がない場合は、法定相続分の割合で相続します。
相続人間で、負債について、法定相続分と異なる遺産分割をしても、債権者との関係では、無効です(大阪高決昭31.10.9)。
⑵ 遺言で相続分が指定されている場合
遺言で、相続分が指定されている場合は、負債も、指定相続分の割合で各相続人が負担することになります。債権者は、相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することはできますが、原則どおり法定相続分で分割された金額を請求することもできます(最判平21.3.24)。
2 負債が、例外的に、遺産分割の対象になる場合
遺産分割のときまでに一部の相続人がすでに支払っている負債については、遺産分割手続中で清算するのが相当であるとの理由で、遺産分割の対象になるとの裁判例(大阪高決昭46.9.2等)があります。
三 葬式費用
葬儀費用は、負債ではありません。これは①相続財産から支払われるべきもの(大阪家審昭51.11.25)、②共同相続人がその相続分に応じて負担すべきもの(仙台家古川支審昭38.5.1、福岡高決昭40.5.6決定)、③まず香典で賄い、その不足分は相続財産の中から支払い、さらに不足するときは相続債務に準じ、相続人が相続分に応じて負担するもの、等の見解に分かれます。
ただし、身分不相応の葬儀をした場合は、費用の超過分は、葬儀を営んだ者つまり喪主が負担すべきものとされます。
なお、葬儀は誰が行うべきかについては、法律に規定はありません。ですから、葬儀は、その地方の慣習や条理に従い行うことになります(甲府地判昭31.5.29)。