遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 資料を渉猟、分析して、事実を追究
祥伝社新書「明治三十七年のインテリジェンス外交」前坂俊之著を一気に読んだ。
資料を渉猟し、分析して、事実を追究する姿勢には、感心した。
この姿勢は、弁護士も見習うべきだ。
2 文辞明晰、語彙豊富
舞台は日露戦争と戦後のポーツマス講和会議なので、時代は明治。
資料というものが古い。したがって、原典は、文辞難解なものも多いと思われるが、著者の文辞は、決して難解ではない。明晰にして豊富な語彙が、ものの本質を掌において指さす如く、私の蒙を啓いてくれた。
一部の語彙については、かなをふり、カッコ書きで意味の説明までしてある。
であるから、分かりやすい本だ。
3 立場の違う双方から語らせる手法は、秀逸
私がもっとも感心したのは、著者が、ポーツマス講和会議の舞台裏を、資料に基づき、日本側に語らせ、かつ、ロシア側に語らせるという手法をとったことだ。
これほど公平なことはない。
この手法も、弁護士が見習うべきだ。
日本側の全権大使の言、イコール、ロシア全権大使の言に非ず。また、ロシア全権大使の言、イコール、日本側の全権大使の言に非ずだ。
双方の意見の相違は、民事事件の原被告の主張の差より大きい。
その主張の差を、じかに、双方から聴くのである。
そして、何が真実であるのか?、何故そうなったのか?は、読者が判断するのである。あたかも、原被告の主張の違いを聴き、証拠を分析して、真実を発見する裁判官のようにだ。もっとも、著者も、一定の断は下してはいるが。
4 読みやすい分量
この本の良さは他にもある。文章の量だ。何日もかけなければ読めない量なら、私は、敬遠したかもしれない。
資料の多い著作には、ときに、せっかく集めた資料だ、割愛するのは惜しい、と思うのか、詳細すぎるものがときにある。
しかし、この本の量は、集中し、惹きつけられ、没頭し、一気に終わる、という量だ。これにも感心した。
5 総評
この本は、一般の人にもだが、弁護士にも勧めたい本である。