遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 遺贈と死因贈与の違いは「単独行為」と「契約」の違い
遺贈は、遺言者が単独で遺産を特定の者に与える意思表示ですので、法的には法律行為のうちの「単独行為」といわれるものです。一方、死因贈与は贈与者と受贈者の契約による財産の無償による譲渡契約で「契約」です。
2 死因贈与契約は、遺贈に似ていることから、遺贈の規定が準用される。
しかしながら、遺贈も、死因贈与も、遺言者(贈与者)が、自分の財産を、死後、特定の者に無償で譲渡する点では、同じ効果がありますので、民法554条は「贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。」との規定を置いています。
3 死因贈与は、契約だが、贈与者の一方的な意思表示で、撤回ができるのか?
死因贈与を契約とみれば、いったん締結した契約を、一方当事者が一方的に解除することは許されません。しかし、死因贈与は、撤回が自由に許されている遺贈に関する規定を準用しているのです。
4 用語の説明ー撤回と解除
ここで、用語の説明をしておきます。
「撤回」とは、いったんした意思表示が、まだ効力を発生する前に、その意思表示をしていない状態に戻すことを言います。遺言の撤回とは、遺言書を作成することで遺言の意思を表示したが、その遺言の効果が発生する遺言者の死亡の前に、遺言をしていない状態に戻すことをいうのです。
「解除」とは、いったん成立した契約を、一方当事者の意思だけで、効力を失わせることをいいます。
ここで、死因契約の撤回という言葉を用いたのは、死因贈与契約も、贈与者が死亡する前の段階では、まだ効力が生じていないことから、遺言の撤回と同じ意味で、贈与の効力を発生させない意味で使っているのです。
4 裁判例
1 負担付き死因贈与契約でない場合は、撤回できる。
最高裁昭和47.5.25判決は、「死因贈与については、遺言の取消に関する民法1022条がその方式に関する部分を除いて準用されると解すべきである。けだし、死因贈与は贈与者の死亡によつて贈与の効力が生ずるものであるが、かかる贈与者の死後の財産に関する処分については、遺贈と同様、贈与者の最終意思を尊重し、これによつて決するのを相当とするからである。」と判示して、死因贈与を遺言の撤回と同じ理由で撤回することができると判示しました。
2 負担付き死因贈与契約の場合で、受贈者がすでに負担を履行した場合は、撤回できない
最高裁昭和57.4.30判決は、死因贈与が負担付死因贈与である場合で、受贈者が、死因契約の履行として、在職中毎月一定額の支払いをし、かつ年2回の定期賞与の半額を支払ってきた場合は、それにもかかわらず負担付死因贈与契約の全部又は一部の撤回をすることがやむをえないと認められる特段の事情がない限り、撤回は出来ない、と判示しています。
3 負担付き遺贈が、和解によるものであるときは、撤回できない
死因贈与が裁判上の和解により成立した場合は、贈与者が、死因贈与契約を撤回することは許されないとする最高裁昭和58.1.24判決もあります。