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相続 126 遺言文例 遺産分割方法の指定

菊池捷男

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1 遺産分割方法の指定の意義
遺産分割方法を指定しますと、相続人間で遺産分割の協議をする必要がなくなります。ですから、裁判所へ遺産分割の審判を求めることも必要はありません。
というより、遺産分割方法を指定すると、相続人には、誰も、遺産分割の協議を求める権利、遺産分割の審判を求める権利そのものがないということになるのです。
これにより、コラム「相続123」で解説しました“争族”の原因のうち
⑴ 遺産の分け方をめぐる争い
⑵ 遺産の範囲をめぐる争い
⑶ 遺産の評価額をめぐる争い
⑷ 生前贈与(具体的相続分算出のための特別受益)の有無、内容をめぐる争い
⑸ 寄与分の有無と内容をめぐる争い
それに、めってにないトラブルですが、
⑼ お前は親父の子ではない、など相続人であることの争い
はなくなります。

2 遺産分割方法の指定の文案
一般に「相続させる」という表現が用いられます。
この表現を用いれば、被相続人の死亡の時に直ちに、相続させると書かれた特定の遺産は、相続させると書かれた相続人に直接帰属しますので、遺産分割協議や審判の必要はなくなるのです(本連載コラム「相続86」で解説。最高裁判所平成3.4.19判決)。

3 文例
第壱条 遺言者は,遺言者の有する次の建物及び借地権を,遺言者の長男○○○○(生年月日)に相続させる。
 壱 〈建物の表示〉
 弐 右建物の敷地である,○○市○○町○丁目○番○号,宅地○○平方メートルに対する借地権(賃貸人○○○○)
第弐条 遺言者は,遺言者の有する次の預貯金を,遺言者の長女○○○○(生年月日)に相続させる。
 壱 ○○銀行(○○支店)の遺言者名義の定期預金全部
 弐 ゆうちょ銀行(○○支店)の遺言者名義の普通貯金〈記号・番号〉
第参条 その他の財産は、すべて妻○○○○(生年月日)に相続させる。

4 相続させる資産を特定しないで「遺産の全部」と書くことも遺産分割方法の指定
文例
 遺言者は,遺言者の有する一切の財産を,妻○○○○(生年月日)に相続させる。
これも遺産分割の方法として有効ですが、この場合は、他の相続人の遺留分を侵害する場合もありますので、慎重な態度が望まれます。
他の相続人の遺留分を侵害すると、
“争族”の原因である、
⑹ 遺留分算定の基礎となる生前贈与の有無と内容
⑺ 遺留分算定の基礎財産に含まれる愛人への生前贈与の有無と内容
⑻ 遺留分減殺請求後の共有物分割方法
を巡る争いが発生する可能性があります。

5 特定の遺産を共有にする遺産分割方法の指定
これは特定の遺産を共有にする遺言ですから、割合で表示されますので、一見すると「相続分の指定」における割合の表示に似ています。しかし、これは「相続分の指定」ではありません。相続分の指定の場合は、遺産分割の協議や遺産分割の審判が必要になりますが、「遺産分割の方法」として共有にする場合は、遺産分割の協議の必要はありません。
文例
第壱条 遺言者は,別紙遺産目録記載の不動産を,妻○○○○(生年月日)及び長男○○○○(生年月日)に,各弐分の壱の割合により相続させる。
第弐条 遺言者は,別紙遺産目録記載の株式を,長男○○(生年月日)及び弍男○○○○(生年月日)に,株数で各弐分の壱ずつ相続させる。端数は,長男○○に相続させる。
第参条 遺言者は,前弐条の財産を除く遺言者の有する一切の財産を,いずれも,長男○○は参分の弐,弍男○○は参分の壱の割合により相続させる。

6 負担付き遺産分割方法の指定の文例
遺言者は、遺言者の遺産につき、次のとおり分割の方法を指定する。
第壱条 遺言者が経営する甲商店の店舗(建物及び敷地の借地権)並びにその営業に関する一切の資産は,長男○○○○(生年月日)に相続させる。この場合,長男は,右資産を取得する負担として,右営業に関する一切の負債を支弁し,他の相続人に負担させてはならない。

7 土地が広い場合で、共有にするとトラブルが起こると考える場合は、土地の分割を指示した上で、その一部づつを分けて与える遺産分割方法の指定もある
壱 土地乙は,東西に、面積等分にて弐分し,弍男○○○○(生年月日)に西側を、参男○○○○(生年月日)に東側を相続させる。

8 清算配分型の遺産分割方法の指定
文案
 遺言者の有する財産の全部を換価し,その換価金から遺言者の一切の債務を弁済し,かつ,遺言の執行に関する費用を控除した残金を,次のとおり配分する。
妻  ○○○○(生年月日)に6/8
長男 ○○○○(生年月日)に1/8
弍男 ○○○○(生年月日)に1/8

9 漏れのない書き方
遺産分割方法の指定の遺言は、特定の遺産を特定の相続人に相続させる遺言ですので、書き漏れが生ずる可能性があります。この場合に備えて。
第○条 その他の財産は、すべて妻○○○○(生年月日)に相続させる。
など、万一、指定した遺産の記載から漏れた財産がある場合でも、特定の相続人が相続できるようにしておくと便利です。

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