遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 遺言文例
1項 遺言者は,次のとおり相続分を指定する。
妻 ○○○○(生年月日) 8/32
長男○○○○(生年月日) 16/32
弍男○○○○(生年月日) 2/32
長女○○○○(生年月日) 3/32
弍女○○○○(生年月日) 3/32
2項 長男は遺言者を助けて家業に従事し,遺言者の死後は家業を承継する立場にあること,二男には自宅の建築資金を贈与していること、長女,弍女はいずれも結婚して経済的にも恵まれていることなどを考慮し,遺留分を侵害しない限度において,右のように相続分を定めた次第である。なお、二男の贈与分については持戻しを免除する。
2 解説
1項は普通の「相続分の指定」の文言です。
相続分の指定は、法定相続分を修正することが目的のもので、法定相続分と同じく、割合で表示されます。
1項のままでは、二男、長女、次女については、遺留分を侵害していないというだけで、二男、長女、次女の納得が得られないかもしれません。また、二男への生前贈与は、持戻し計算がなされ複雑な関係になり、争いの火種になってしまいます。
そこで、2項で、1項の相続分の指定の理由を明らかにし、かつ二男への生前贈与は、持戻し免除をすることにして、複雑になる可能性のある火種を消してしまったのです。
なお、このケースでの長女や次女の遺留分は、(相続開始時の遺産の価額A+贈与財産の価額B)×1/2×彼らの法定相続分である1/8で算出された金額で、上記Aに対する3/32が遺留分を侵害しているかどうかは、明らかではありませんが、ここででは、これが遺留分を侵害していないとの前提にしています。
3 相続分の指定の委託についての遺言事項
1項 遺言者は,相続人全員につきその相続分の指定をすることを,次の者に委託する。
住 所
職 業
氏 名
生年月日
2項 遺言者は,遺言者の相続人らの経済状態,年齢その他の事情を考慮して,実質的に適正公平に指定することを希望する。
解説
実務では極めて少ない事例ですが、相続分の指定を第三者に一任することも可能です。
4 問題点
相続分の指定では、遺産分割の協議や遺産分割の審判は必要です。
そうなれば、遺産分割をめぐるトラブルの発生リスクはなくなりません。
なお、相続分の指定の場合は、それをするだけで相続分が指定相続分どおりになる、という遺言の効果が生じますので、改めて遺言執行者の遺言の執行は必要ありません。