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相続 122 帰属上の一身専属権は相続しない

2011年2月6日 公開 / 2011年2月9日更新

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き


1 相続の対象財産から、帰属上の一身専属権は除かれる
民法896条本文は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」と定めていますので、「被相続人の一身に専属した」権利は相続しないことになります。
これが、「帰属上の一身専属権」と言われるものです。
帰属上の一身専属権の名の由来は、被相続人以外の者、つまりは相続人に帰属するのが適当でない権利という意味からです。

2 行使上の一身専属権
民法423条は、「債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。」と、債権者代位権という権利を定めていますが、ここでも「債務者の一身に専属する権利」は、債権者は行使できないと定めています。
これは「行使上の一身専属権」と言われる権利です。名の由来は、債務者以外の者、つまりは債権者が行使するのは適当でないという意味から来たものです。

3 帰属上の一身専属権と行使上の一身専属権は同じものか?
多くは共通のものとされていますが、法の趣旨から異なるものもあります。
例えば、慰謝料請求権。
これは相続人が相続することが適当ではない権利ではないので、帰属上の一身専属権にはならず、相続の対象になりますが、慰謝料請求権を行使するかどうかは被害者の自律的判断に委ねるべきで、債権者に行使させるのは適当ではありません。
最判昭和42.11.1は、帰属上の一身専属性については、「慰謝料請求権は、当該被害者が死亡した場合には当然に相続されるものである」と判示して、これを否定して、慰謝料は相続の対象になる、としました。
しかし、行使上の一身専属性については、最判昭和58.10.6は、慰謝料は、それを行使するかどうかは被害者の自律的判断に委ねるべきで、ただ「加害者が被害者に対し一定額の慰藉料を支払うことを内容とする合意又はかかる支払を命ずる債務名義が成立したなど、具体的な金額の慰藉料請求権が当事者間において客観的に確定したとき」に限り、債権者は代位行使できると判示しています。

5 遺留分減殺請求権
最判平成13.11.22は「遺留分減殺請求権は行使上の一身専属権であるから、遺留分権利者がこれを第三者に譲渡するなど権利行使の確定的な意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位権の目的には出来ないと判示しています。ですから、遺留分減殺請求権は行使上の一身専属権ですが、帰属上の一身専属権かどうかについて明示した判例はありません。
慰謝料の場合と同じように、相続の対象にしても良いと思われますが。

6 相続の対象にならない帰属上の一身専属権の例
⑴ 扶養請求権
 これは扶養を要する扶養権者の要扶養状態や扶養義務者の資力などの要件が必要ですので、被相続人の死亡により、当然に相続されるというものではありません。
⑵ 夫婦が離婚したときに発生する財産分与請求権のうちの扶養的要素部分
 財産分与請求権には①夫婦共有財産の清算的要素、②慰謝料的要素、③離婚した者の将来の扶養的要素の3つがあるとされていますので、①と②の要素部分は相続の対象になり、③の要素部分は相続に対象にはならないとされています。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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