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相続 115 取り戻す財産って何?

2011年1月30日

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き投資信託


1 問題⑴
遺留分が侵害され、その遺留分を取り戻す、あるいは回復させるために、受遺者や受贈者に対し、遺留分減殺請求をした場合、遺留分権利者は、何を取り戻すことになるのでしょうか?
例えば、相続人が兄と弟の2人、被相続人の父が「遺産(1億円相当)はすべて兄に相続させる」との遺言を書いていたとし、生前贈与や負債はない場合、弟の遺留分は1億円の1/2に法定相続分の1/2を乗じた金額である2500万円ですから、弟は兄に対し2500万円相当の遺産の返還を請求することができることになります。
この場合、兄が父から相続した財産は、仮にA宅地とB宅地という複数の不動産、○○銀行にある預金、△△証券会社に預けている投資信託など複数あるとした場合、弟は遺留分減殺請求の結果、何を取り戻せるのか?という問題です。

2 判例
最高裁平成8.1.26判決は、
ア 甲が、包括遺贈により、被相続人が相続開始当時所有していた全遺産を取得し、
イ 乙が遺留分減殺請求権を行使すれば、修正された相続分の割合(上記の例では兄が3/4、弟が1/4)により、全遺産につき、AとBとの共有の関係が成立する。
ウ その結果、不動産については、甲は乙に対し、遺留分減殺を原因として乙の持分を前記割合(この例では1/4)とする所有権一部移転登記手続をする義務を負う。
エ 乙のこの共有持分権は、遺産分割の対象となる相続財産としての性質を有しない。
オ エの考えは、特定遺贈の場合であると包括遺贈の場合であるとを問わない。
と判示していますので、
遺留分権利者が取り戻す権利は、遺産のすべてについて、共有持分権の回復になります。上記の例では、被相続人の遺産のすべてについて、兄が3/4、弟が1/4の権利を持ち、これが共有になるのです。
しかし、この共有は、遺産分割の対象になる共有ではなく、共有物分割の対象となる共有になるのです。

3 問題⑵
遺留分権利者には、遺贈財産の中から、任意で財産を選択する権利はないのか?
つまり、上記の例では、弟は、A宅地やB宅地、それに○○銀行にある預金、△△証券会社に預けている投資信託などの中で、例えば、2500万円相当のA宅地を選択する権利はないのか?という問題です。結論ですが、遺留分権利者に取り戻し財産を選択する権はありません。

4 問題⑶
では、遺留分減殺請求を受けた方に、対象財産を選択する権利はないのか?
前記の例で、兄の方から、弟に返す財産を、すべての相続財産の中から、例えば、1500万円相当のB宅地と1000万円相当の投資信託に決める権利はないのか?です。
この結論も同じです。つまり、遺留分義務者に、返す財産を特定する権利はありません。

5 問題⑷
では、遺留分権利者には、義務者に対し、財産に代えて価額の弁償を請求する権利はないのか?
これもありません。

6 問題⑸
遺留分義務者には、価額で弁償することを選択する権利はないのか?
これはあります。
すなわち、民法1041条1項は「受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。」と規定していますので、遺留分の減殺請求をされる側は、現金で弁償することは認められるのです。

7 問題⑹
価額で弁償する場合、価額弁償を一部の財産だけについてできるか?
できます。前述の例で言いますと、遺留分減殺請求を受ける兄は、投資信託についてはその1/4について価額による弁償をし、その他の財産については共有持分1/4をそのまま返還することも可能なのです。

8 問題⑺ 
賃貸マンションなど収益の伴う財産(全部又は共有持分)を取り戻したとき、賃料も請求できるか?
できます。
民法1036条は「受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。」と規定しているからです。ですから、法定果実である賃料について請求できますが、その内容については別のコラムで解説する予定です。

8 問題⑵ないし問題⑺の判例
最高裁平成12.7.11判決は、「遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念されるのであるから、その返還義務を免れるための価額の弁償も返還請求に係る各個の財産についてなし得るものというべきであり、また、遺留分は遺留分算定の基礎となる財産の一定割合を示すものであり、遺留分権利者が特定の財産を取得することが保障されているものではな」い(民法1028条ないし1035条参照)と判示し、
問題⑵に関し、遺留分権利者のする返還請求は権利の対象たる各財産について観念されるもので、遺留分権利者が、対象となる財産の中から一部を選択してその返還を求めることはできない、と判示しました。前記の例でいうと、弟は、A宅地を返還してもらえば遺留分が回復するという場合、A宅地の選択権はないということです。
問題⑶に関し、この最高裁の理では、遺留分の減殺を求められる側の、返還する物を選択する権利も否定されることになります。つまり、遺留分減殺請求の相手方も、土地又は株式のいずれかを選択することは許されません。
問題⑷に関し、遺留分権利者が、価額弁償つまり現金による弁償を求めることも否定されます(前記最高裁判決前でも、名古屋高裁平成6.1.27判決や東京高裁昭和60.9.26判決も、遺留分権利者からの価額弁償を否定しています。)。
問題⑸に関しては、民法1041条の規定により可能です。
問題⑺は民法1036条によりできるのです。

9 取り戻した権利について登記をしないでいると、その後、被減殺者から権利を譲り受けた第三者に、負けてしまう。
最高裁昭和35.7.19判決は、取り戻した財産については、登記をしないと、その後被減殺者から権利を譲り受けた第三者に対抗できない、と判示しております。その場合は、遺留分権利者は、被減殺者に対し不法行為に基づく損害賠償の請求をすることは可能です(東京地裁平成2.10.31判決)。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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