遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 裁判外の意思表示でよい
遺留分減殺請求権を行使する場合、必ずしも、訴訟を起こす必要はありません。相手方に対し、その旨の意思表示をするだけで十分ですが、遺留分減殺請求権は一定の期間が経過すると消滅時効にかかり消滅してしまいますので、その期間内に請求したことを明らかにするために、内容証明郵便ですることが望まれます。
2 内容証明郵便が、相手方に受領拒否された場合は、遺留分減殺請求権の行使があったとは言えないのか?
最高裁平成10.6.11判決は、
ア 内容証明郵便による意思表示は、相手方に到達することによってその効力を生ずるものであるが、
イ 「到達」とは、意思表示を記載した書面が相手方によって直接受領され、又は了知されることを要するものではなく、これが相手方の了知可能な状態に置かれることをもって足りる(最高裁36.4.20判決)ので、
ウ 相手方が、内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができている場合で、
エ 相手方に受領の意思があれば、郵便物の受取方法を郵便局に対し指定することによって内容証明郵便を受領することができた場合は、
オ 内容証明郵便は、遅くとも郵便局での留置期間が満了した時点で、相手方に到達したものと認めるのが相当である。
と判示しております。
したがって、内容証明郵便が相手方によって受領拒否された場合でも、内容証明郵便が送達されたと認められる場合があるのです。
3 遺留分減殺請求の意思表示を明確にしないで、遺産分割の協議を申し入れた場合、遺留分減殺請求があったと認定してもらえないか?
前記最高裁平成10.6.11判決は、「遺産分割と遺留分減殺とは、その要件、効果を異にするから、遺産分割協議の申入れに、当然、遺留分減殺の意思表示が含まれているということはできない。しかし、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには、法律上、遺留分減殺によるほかないのであるから、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解するのが相当である。」
と判示しております。