遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 最高裁判決
最高裁判所平成8.11.26判決は、「被相続人が相続開始の時に債務を有していた場合の遺留分の額は、民法1029条、1030条、1044条に従って、被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し、それに同法1028条所定の遺留分の割合を乗じ、複数の遺留分権利者がいる場合は更に遺留分権利者それぞれの法定相続分の割合を乗じ、遺留分権利者がいわゆる特別受益財産を得ているときはその価額を控除して算定すべきものであり、遺留分の侵害額は、このようにして算定した遺留分の額から、遺留分権利者が相続によって得た財産がある場合はその額を控除し、同人が負担すべき相続債務がある場合はその額を加算して算定するものである。」と判示しました。
2 遺留分の額の計算式
⑴ 遺留分算定の基礎となる財産額の確定までの計算式(a+b-c=d)
(a)被相続人が相続開始の時に有していた財産全体の価額+(b)贈与した財産の価額-(c)債務の全額=(d)遺留分算定の基礎となる財産額
⑵ 遺留分額の確定までの計算式(d×e×f-g=h)
(d)遺留分算定の基礎となる財産額×(e)1/3又は1/2(遺留分割合)×(f)遺留分権利者の法定相続分-(g)遺留分権利者の特別受益額=(h)遺留分権利者の遺留分の額
3 遺留分侵害額の計算式(h-i+j=k)
(h)遺留分権利者の遺留分の額-(i)遺留分権利者が得た相続財産+遺留分権利者が負担した相続債務額
4 解説
⑴(a+b-c=d)の遺留分算定の基礎となる財産額の確定までの計算式は、本コラム「相続100~102」で解説したとおりです。
⑵遺留分額の確定までの計算式である(d×e×f-g=h)は、遺留分算定の基礎となる財産額に、遺留分割合を乗じて総体的遺留分を算出し、それを各相続人の法定相続分で除して各相続人の個別遺留分を算出し、そこから各相続人が受けた贈与、遺贈等の特別受益額を控除して算出したものです。
⑶の遺留分侵害額は、ここから、各相続人が相続によって得られた財産があればその価額を引き、相続債務額を加算したものです。
相続債務額を加算したのは、遺留分算定の基礎となる財産額から被相続人の債務の全額が控除されていますので、各相続人ごとの侵害額を算出するときに、各相続人の相続債務を加える必要があるからです。