遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 遺留分
本連載コラム「相続100」で、遺留分とは、被相続人の財産の1/3(直系尊属のみが相続人である場合)又は1/2(それ以外の場合)に相当する額、だと説明しました。
参照:民法1028条
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
①直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の1/3
②前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の1/2
2 「被相続人の財産」の中味ー遺留分算定の基礎となる財産
では、被相続人の財産とはなんでしょうか?
その答は、民法1029条1項に記載されています。
すなわち、
民法1029条1項は、「遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。」と規定しているのです。これにより、遺留分算定の基礎となる被相続人の財産というのは、被相続人の相続開始時の財産の価額(a)+贈与財産の価額(b)-債務の全額(c)という計算式で得られる価額になります。
3 その中身の(a)「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」
この「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額」という言葉は、特別受益者の具体的相続分を算出する方法に関する民法903条にもある言葉ですが、意味は同じです。
参照:
民法903条1項
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
民法1029条1項
遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
ア 遺贈財産
したがって、被相続人が相続開始の時において有した財産には、被相続人が遺言で遺贈すると定めた財産や、遺言で遺産分割の方法として指定した財産も含まれます(通説・判例。なお、最高裁平成3.4.19判決・最高裁平成8.1.26判決を参照)。
イ 系譜、祭具及び墳墓等の祭祀用財産は、祭祀を主宰すべき者が承継します(民法897条)ので、ここには含まれません。
ウ 死亡生命保険金は、保険金受取人固有の財産です(最高裁平成14.11.5判決)から、相続財産にはならず、ここには含まれません。
エ 死亡退職金、遺族年金
これらも、相続財産ではありません。
オ 夫婦が離婚したときに、一方当事者(多くの場合は妻)が相手方当事者(多くの場合は夫)に対して、財産分与請求権を行使できますが、被相続人が、生前、その権利を行使する意思を明らかにしていたときは、その権利が具体的に発生したものとして相続財産になりますので、ここに含まれますが、被相続人がその権利を行使する意思を表示しないまま死亡した場合は、その権利は具体的に発生しておらず、相続財産にはならないとされています(最高裁昭和42.11.1判決)。
この理は、離婚した夫婦間の財産分与請求権は、その権利を行使するかしないかは、本人である被相続人が決めることであり(これを「行使上の一身専属権」といいます)、相続人といえどもその権利の行使をしてよいものではないので、被相続人が生前その権利を行使する意思を明らかにしているときに限って、相続人がその権利を承継するというものです(民法896条但し書き参照)。
民法896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。