遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 問題
父が、長男甲にA宅地を相続させる、との遺言を書いた後で、甲が死亡し、その後で被相続人である父が死亡したとき、A宅地は当然に甲の子乙(代襲相続人)が相続することになるのか?
2 代襲相続人は相続しないとの見解(消極説)
遺言者は、そのような事態が生ずることを予想して、その場合は乙に代襲相続人としてA宅地を相続させる旨の遺言を書くことが出来るのだから、それをしないで死亡した場合は、その遺言は無効になる、との見解があります。
最高裁の判例はまだなく、学説ではこの見解が多いと言えます。
⑵ 代襲相続人が相続するとの見解(積極説)
東京高裁平成18.6.29判決は、
① 相続人(仮に「甲」)に対し、特定の財産(仮に「A宅地」)を相続させる遺産分割方法の指定がされると、甲は、相続の内容としてA宅地を取得することができる地位を取得することになる。
② その結果、甲は被相続人の死亡とともにA宅地を取得することになる。
③ 甲が、被相続人の死亡より早く死亡した時は、その子(仮に「乙」)が代襲相続によりその地位を相続する。
との理由です。
最高裁の判決(判例)が待たれるところですが、実務的には、消極説の見解に立ち、遺言で明確にしておくべきでしょう。
遺言文例
私は、A宅地を長男の甲に相続させる。
この遺言の効力が生ずる前に甲が死亡したときは、A宅地は甲の長男乙に相続させる。