遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 予想されるケース
公共事業の用地として予定されている土地が、たまたま相続財産であるが、まだ遺産分割ができないでいる間に、買収の話が進み、相続人が、その土地を売却したような場合です。
それによって得られた代金は、相続財産そのものではなく、相続財産である土地が形を変えて現金になったとも言えますので、遺産である土地や現金ならば遺産分割に対象になるのだから、土地の代金も遺産分割の対象になる、と考えても良いのではないか?という問題です。
2 判例
判例は、相続財産を相続開始後売却して現金にした場合は、その現金は遺産ではないので、遺産分割の対象にならず、各相続人が、相続分の割合で、分割取得するとしています。すなわち、最高裁判所昭和52.9.19判決は、「共同相続人が全員の合意によつて遺産分割前に遺産を構成する特定不動産を第三者に売却したときは、その不動産は遺産分割の対象から逸出し、各相続人は第三者に対し持分に応じた代金債権を取得し、これを個々に請求することができる。」と判示したのです。
要は、相続財産を売って得たお金は、相続分の割合ですぐに支払ってくれ、と請求できるということです。
3 全相続人が合意すれば、遺産分割の対象にしうる
最高裁判所昭和54.2.22判決は、 共同相続人全員の合意によつて、相続財産を構成する特定不動産を遺産分割前に他に売却した場合には、右不動産は遺産分割の対象たる相続財産から逸出するとともに、その売却代金は、“これを一括して共同相続人の1人に保管させて遺産分割の対象に含める合意をするなどの特別の事情がない限り”、相続財産には加えられず、共同相続人が各持分に応じて個々にこれを分割取得する。」と判示し、相続財産を売った代金を、共同相続人の1人に保管させて遺産分割の対象に含める合意を全相続人間で結ぶ場合は、例外として、遺産分割の対象になる、と判示しています。