遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 換価分割の意味
これは遺産分割の対象になる相続財産の全部又は一部を売却して、売却代金を分け合う遺産分割の方法を言います。
実務では、狭小な土地とその上の建物だけが遺産分割の対象財産で、相続人の誰もが自分がそれを取得して他の相続人には代償金を支払う資力がない場合、やむを得ずそれを売って代金を分け合うという場面があるのですが、このような場合に、他に反対する相続人がいても、家庭裁判所で強制的にして競売による換価手続をしてもらえるという意味で、有効な遺産分割の方法と言えるでしょう。
2 換価分割の方法
⑴ 共同相続人間の協議で全員で一致すれば可能です。
⑵ 家庭裁判所の審判でも可能です・
3 家庭裁判所の審判では2つの時期、方法がある
⑴ 終局審判でする。
この場合は、裁判所は、遺産の競売を命じ、その代金を分配する基準を命じすることになります。
⑵ 中間処分としても可能
換価する遺産の外にもなお分割対象の遺産がある場合は、まずは換価対象遺産を換価処分して、売却金を他の遺産に加えて、終局審判で遺産分割をする方法もあります。
家事審判法15条の4で「家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があると認めるときは、相続人に対して、遺産の全部又は一部について競売し、その他最高裁判所所の定めるところにより換価することを命ずることができる。」と規定しているところです。
4 換価の具体的な方法
⑴競売と⑵任意売却
これらは、いずれも可能です。
家事審判規則108条の3第1項で「家庭裁判所は、相当であると認めるときは、相続人の意見を聴き、遺産を任意に売却すべきことを命ずることができる。ただし、相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない。」と、任意売却と競売による換価処分のことが規定され、家事審判規則108条の4で「遺産の競売又は換価を命ぜられた相続人・・は・」との規定が置かれているからです。なお、任意売却は、相続人全員が賛成していないとできないこと、上記家事審判規則108条の3第1項ただし書きに規定されています。
5 審判による換価処分で考慮される事情
① 現物分割が困難であること
この中には、狭小な宅地、間口の狭い宅地など物理的に分割が困難である場合の外、現物分割は可能ではあるが、そうするとその財産そのものの価値が落ちる場合を含まれます。
② 全相続人が代償金を支払う能力がないこと(新潟家裁三条支部昭和41.12.8審判)
なお、代償金を支払う能力に疑問があることの上、代償金算出のための鑑定評価額について問題点があるとして換価分割を言い渡した大分家裁昭和50.7.18審判もあります。
③ 当事者が換価処分を希望していること、あるいはやむを得ないものと納得していること(広島高裁平成3.9.30決定)等があります。