遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 代償分割の意味
代償分割とは、「債務負担による分割」です。すなわち、遺産分割は、現物を分割するのが原則ですが、現物分割が難しいなどの事情があるとき、相続人の一部の者が現物を取得し、他の相続人には、その現物を取得した相続人が一定の金銭債務を負うという分割方法です。家事審判規則109条は、「家庭裁判所は、特別の事由があると認めるときは、遺産の分割の方法として、共同相続人の1人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて、現物をもつてする分割に代えることができる。」との規定を置いていますので、「特別の事由」がある場合に、家庭裁判所は、代償分割ができるのです。
2 特別の事情の要件
大阪高等裁判所昭和54.3.8決定は、家事審判規則109条にいう「特別の事由」があるときとは、
① 相続財産が細分化を不適当とするものであること
② 共同相続人間に代償金支払いの方法によることにつき争いがないこと
③ 当該相続財産の評価額がおおむね共同相続人間で一致していること
④ 相続財産を取得する相続人に債務の支払能力があること
に限られると判示していますが、実務的な感覚としては、もっと緩く、言い換えれば、結構多く代償分割の審判をしている感があります。代償分割は、裁判所が「特別の事由」があると判断すれば、債務を負担させられる相続人の意思に反してもなし得ることなのです。
しかしながら、上記の4要件の内④の資力要件は絶対に必要な要件です。また、代償分割の審判をする場合は、代償金を支払う相続人に資力があることを、審判書の中で明らかにさせることが要求されています。すなわち、最高裁平成12.9.7決定は、「家庭裁判所は,特別の事由があると認めるときは,遺産の分割の方法として、共同相続人の一人又は数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて,現物をもってする分割に代えることができるが(家事審判規則109条),右の特別の事由がある場合であるとして共同相続人の一人又は数人に金銭債務を負担させるためには,当該相続人にその支払能力があることを要すると解すべきである」と判示し、「高裁(原審)が相続人の1人(抗告人)に対し,高裁のした決定(原決定)確定の日から6箇月以内に,他の相続人(相手方ら)に総額1億8822万円を支払うことを命じたが、この決定の中には、抗告人が金銭の支払能力がある旨の説示はなく,その事件の記録を精査しても,支払能力があることを認めるに足りる事情はうかがわれない。」として、更に審理を尽くさせるため,右部分について事件を原審に差し戻しました。
3 債務は分割でも良いか?
神戸家庭裁判所尼崎支部昭和48.7.31審判は、債務を年5分の利息を付けて5年間で支払う内容にしました。新潟家庭裁判所昭和42.7.31は10年割賦にしました。東京家庭裁判所昭和50.3.10審判は、抵当権付きで、弁済に1年半の猶予を与えています。