遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 超過特別受益者がいない場合の計算方法(同時適用説)
計算方法については、特別受益に関する民法903条と、寄与分に関する民法904条の2の同時適用説が、実務で採用されていますので、これに基づき計算します。
例
相続人・・・・・・・・妻甲、子乙、子丙の3人
相続分(法定相続分)・・甲1/2、乙1/4、丙1/4
相続財産の価額①・・・6000万円
生前贈与②・・・・・・乙は1000万円の生前贈与を受けている。
寄与分③・・・・・・・丙には600万円の寄与分が定められた。
例の元での計算
みなし相続財産④・・・①+②(民法903条による)-③(民法904条の2による)の計算式により、6000万円+1000万円-600万円=7400万円になりますので、各相続人の一応の相続分と具体的相続分は、
甲・・・・6400×1/2=3200万円
乙・・・・6400×1/4-1000=600万円
丙・・・・6400×1/4+600=2200万円
になります。
なお、一応の相続分は、みなし相続財産に法定相続分又は指定相続分を乗じて算出された金額から特別受益額を控除した金額です。そして具体的相続分は、一応の相続分がマイナスになる相続人がいない限り、一応の相続分と同じ数字になります。このことは本コラム「相続 56」で解説したとおりです。
2 超過特別受益者がいる場合の計算方法(同時適用説)
例
相続人・・・・・・・・妻甲、子乙、子丙、子丁の4人
相続分(法定相続分)・・甲1/2、乙1/6、丙1/6、丁1/6
相続財産の価額①・・・6000万円
生前贈与②・・・・・・乙は1800万円の生前贈与を受けている。
寄与分③・・・・・・・丙には1200万円の寄与分が定められた。
みなし相続財産④・・・①+②(民法903条による)-③(民法904条の2による)の計算式により、6000万円+1800万円-1200万円=6600万円になり、
各相続人の一応の相続分は、
甲・・・・6600×1/2=3300万円
乙・・・・6600×1/6-1800=-700万円
丙・・・・6600×1/4=1100万円
丁・・・・6600×1/4=1100万円
一応の相続分は、前述のように、みなし相続財産に、相続分を乗じて算出された金額から、特別受益分を控除した金額です。
この例では特別受益は乙の生前贈与分1800万円のみですので、上記のような計算になります。
ところで、この例では、乙は一応の相続分がマイナスになりました。しかし、乙はそのマイナス分を返還する必要はありません。具体的相続分が0になるだけです。一応の相続分を算出した結果の乙のマイナス分は、次の具体的相続分を算出する際に、他の相続人が、一応の相続分の比率で負担することになります。したがって、次のステップである具体的相続分の算出は、(相続開始時相続財産の価額-寄与分)×各相続人の一応の相続分率で計算することになります。すなわち、
甲・・・(6000-1200)×3300÷(3300+1100+1100)=2880万円
丙・・・(6000-1200)×1100÷(3300+1100+1100)=960万円
丁・・・(6000-1200)×1100÷(3300+1100+1100)=960万円
になります。
これにより各相続人の最終の取得分は、
甲・・・2880万円
乙・・・0円・・・・・1800万円の生前贈与があるのみ
丙・・・960+1200=2160万円
丁・・・960万円
になります。