遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 寄与相続人に与えた特別受益が、寄与の対価であると思えるときは、認められない
最高裁判所事務総局家庭局『改正民法及び家事審判法規に関する執務資料』(昭56)には、
「寄与した相続人に対して既に生前贈与又は遺贈がなされている場合において、当該生前贈与等が、明示的であるかどうかを問わず、寄与に対する実質的な対価としてなされたものであることが認められるときは、寄与分は認められないということになろう。」この場合は、「寄与の対価と認められる限度において、生前贈与等を持戻しの対象としない取扱をすることになるものと考えられる。」
と寄与分に関する解釈運用指針を示しています。
2 裁判例
東京高裁平成8.8.26決定は、夫である被相続人が生前妻へ土地を贈与していたことに関して、「妻として長年にわたる貢献をしてきた事実は認められるが、上記の贈与によって妻が得た利益を超える寄与があった事実は認めることができない。」として、寄与分を否定しました。ただ、この審判は、妻が受けた贈与については「暗黙のうちに持ち戻し免除の意思表示をしたものと解するのが相当である」として、寄与分を認めない代わりに贈与の持戻しを免除しています。
これは、実質的には、贈与財産を寄与分に対する対価と評価したとも言えるでしょう。