遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 寄与の基準時
寄与があったかどうかの判断の基準時は、相続開始時です。相続開始後の貢献は、寄与分として評価されません。
東京高等裁判所昭和57.3.16決定は、
「いわゆる寄与分とは、共同相続人の一部の者が被相続人の財産の維持又は増加に対し通常の程度を超えて寄与した場合に、遺産分割に際し、相続開始時における具体的相続分を算定するにあたり、共同相続人間の衡平を図る見地から、特別受益と同様に、その寄与を評価すべきものとされるものにほかならないから、相続開始時を基準としてこれを考慮すべきであつて、相続開始後に相続財産を維持又は増加させたことに対する貢献は寄与分として評価すべきものではないと解すべきである。なお、相続財産の管理のために現実に要した費用は、遺産分割に際してあわせて清算されるとしても、管理により増加させた相続財産の価値については、相続財産に関する費用に準じて、分割時にこれを清算すべきであるとする法的根拠を見出すこともできない。」
と判示しているとおりです。
2 例外的取扱い
東京高等裁判所昭和54.3.29決定は、 寄与分でいう相続人の寄与とは、相続の開始後において遺産の維持・管理のためになされた共同相続人の協力のことを指すものではない、としながらも、相続人Aが、相続開始後、大学を中退して被相続人である父の家業を引き継ぎ、他の相続人の協力を得てこれに専念し、その収益で一家の生計を支え、他の相続人らの学資を工面し、家業の経営が思わしくなくなつた後においても、高等学校教諭の職に就いて副業となつた家業の経営を続け、数次にわたつて遺産である建物を改修あるいは増築してその保存を図り、また遺産である借地の賃料を支弁し、公租公課等を負担してきた事実を認定した上で、これら遺産が分割時において高額な評価を得るに至つたことについては右相続人の有形無形の貢献によるところが大きいとして、右貢献度を金銭に見積り、予め遺産から控除するのが相当であると判示し、事実上、相続開始後の寄与分を認めています。