遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 相続人の配偶者や子が被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をしている場合、彼らに寄与分が認められるか?
認められません。まず、民法904条の2第1項は、寄与者は「共同相続人の中・・・の者」としていますので、相続人の配偶者や子にどれほど寄与があっても、彼らの「寄与分」は認められません。裁判例も、
ア 秋田家庭裁判所大曲支部昭和37.6.13審判は、
長男の死後に,その妻(相続人ではない)が義父の遺産の「維持管理に多大の寄与をしたことは…認められる」としながらも,「同女が被相続人の財産について共有持分権を取得するとの主張は、現行法上は到底首肯しがたい」と判示し、相続人でない長男の妻が遺産について権利を有することを否定しました。
イ 東京高等裁判所昭和54.2.6決定は、
「寄与分は相続人が遺産分割の手続において清算するものであるから、相続人でない第三者が遺産分割手続の中で寄与分の主張をすることは許されないものと解するのが相当である。」と判示して,被相続人の三男(既に死亡)の妻について,寄与分を認めませんでした。
2 相続人が配偶者や子の寄与を自分の寄与として寄与分を主張できるか?
⑴ 履行補助者
相続人以外の者が、被相続人の財産の維持増加に寄与した場合にも,相続人の「履行補助者」(本人の指示を受けて本人に代わって義務の履行をする者)の寄与であると判断されれば,相続人に寄与分が認められます。
ア 東京家庭裁判所平成12.3.8審判は、
脳梗塞の後遺症が残る被相続人を、被相続人の妻とともに介助した相続人の妻子の行為は、「相続人の履行補助者的立場にある者の無償の寄与行為として、相続人の特別の寄与にあたるものと解する。」と判示して、相続人の寄与分として認めました。
イ 神戸家庭裁判所豊岡支部平成4.12.28審判は、
被相続人の子である相続人の妻の「献身的看護は、親族間の通常の扶助の範囲を超えるものがあり、そのため、被相続人は、療養費の負担を免れ、遺産を維持することができたと考えられるから、遺産の維持に特別の寄与貢献があったものと評価するのが相当」と判示した上で、「右看護は、相続人の妻として、相続人と協力しあい、相続人の補助者または代行者としてなされたものである」との理由で、相続人の寄与分として認めました。
⑵ 代襲相続人
ア 前記1のイの東京高等裁判所昭和54.2.6決定は、
被相続人の三男(既に死亡)の妻の寄与分は認めませんでしたが、その妻の寄与について「本件遺産分割の審判にあたつては、右事情を民法906条にいう「その他一切の事情」としてその子である代襲相続人に有利に考慮するのが相当である。」と判示して、その者の子である代襲相続人の寄与分として認めました。
イ 熊本家庭裁判所玉名支部平成3.5.31審判は、
「上記認定の事実によれば、亡Aやその妻Bの寄与は特別の寄与というべきである。そして被代襲者である亡Aの死亡によって、代襲者であるその相続人Cらは被代襲者である亡Aの寄与分を主張できるものと解される。」と判示しました。
参照
民法906条
遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。