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相続 62 寄与分が認められる場合

菊池捷男

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1 一般論
民法904条2項第1項は「共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」があるときは、寄与分を認めると規定しています。
ですから、寄与分が認められるのは、相続人が①被相続人の事業に関する労務の提供、②財産上の給付、③被相続人の療養看護、④あるいはその他の方法により、「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」場合です。
なお、「特別の寄与」については、最高裁判所事務総局家庭局「改正民法及び家事審判法規の解釈運用について」という通達(家裁月報33巻4号)で、「被相続人と相続人の身分関係に基づいて通常期待されるような程度の貢献」は寄与分とはみない。それを「相続分の修正要素である寄与分とすれば、相続分をきわめて可変的なものにすることになり権利関係の安定を著しく害するおそれがあるからである。しかし、相続人に通常期待される程度を超えた貢献や寄与がある場合は、寄与分とみる。なお、「相続人に通常期待される貢献」という場合、相続人による立場の違いも考慮される。例えば、相続人である配偶者と子が同じ程度の家事労働による寄与をしたとしても、配偶者は「協力扶助義務の範囲内のものと認められる」が、「一般的な扶養義務ないしは互助義務を負うに過ぎない子については」特別の寄与になると認めうる場合もある。旨を書いております。

2 被相続人の事業に関する労務の提供ー家業従事型
裁判例としては、
ア 被相続人に代わって医療法人の経営に貢献し、被相続人の資産の増加や維持保全に寄与した子に相続財産の3割の寄与分を認めた大阪高裁昭和54.8.11決定、
イ 約25年間家業に従事した子に1割の寄与分を認めた福岡家裁小倉支部昭和56.6.18審判、
ウ 農業後継者として家業に従事し被相続人の扶養にあたった子に1000万円(全遺産の3.7%程度)を認めた千葉家裁一宮支部平成3.7.31審判、
エ 農業後継者の寄与分について、7割を認めた原審の審判を、相当ではないとして差し戻した東京高裁平成3.12.24決定、
カ 農業後継者の寄与分を遺産の評価額の50%と認めた横浜家庭裁判所平成6.7.27審判
オ 農業従事期間中、「人力による農作業標準賃金の1日あたりの単価に、年間の作業日数を60日、生活費として40パーセントを控除することにして、寄与分を金額で出した盛岡家庭裁判所一関支部平成4.10.6審判
などがあります。


3 財産上の給付ー共働き型・出資型
ア 被相続人である夫もサラリーマン、妻もサラリーマンであり、それらによって得た収入で、宅地、建物を購入したケースで、妻の寄与分を82.3%あると認めた和歌山家裁昭和59.1.25審判があります。
イ 被相続人に資金援助をして、被相続人の相続財産の維持、増加に寄与した場合も考えられます。これらはケースバイケースで考えられることになります。
次の裁判例は、被相続人にではなく、被相続人が代表取締役となっている株式会社へ出資したケースです。
ウ 高松高等裁判所平成8年10月4日決定は、被相続人が創業した株式会社に資金援助をした相続人について、株式会社とはいえ実質は被相続人とは経済的に極めて密着した関係にあり、会社への援助と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性がある場合には、被相続人に対する寄与と認める余地があるとして、経営危機にあった会社へ資金提供をした相続人の寄与分を遺産の20%だとしました。

3 被相続人の療養看護
これは、前記最高裁判所の解釈運用通達に書かれた「相続人に通常期待される程度を超えた貢献」なのかどうかが論議される場合が多くなります。
ア 大阪家庭裁判所平成19.2.8審判は、「子の1人が被相続人に昼食と夕食を作り、被相続人方に届けるほか、日常的な世話を行っていた」段階では、「被相続人に対する日常生活上の世話は,親族間の扶養協力義務の範囲のものであると認められ,特別の寄与とまではいえない。」として寄与分を認めませんでしたが、「被相続人に認知症の症状が顕著に出るようになったため,相手方は,被相続人の3度の食事をいずれも相手方方でとらせるようになり」常時見守りや排便への対応をするようになって以降は特別の寄与になると判示し、1日当たり8000円の3年分876万円を寄与分として認めました。
イ 大阪高等裁判所平成19.12.6決定は、「被相続人は平成10年頃からは認知症の症状が重くなって排泄等の介助を受けるようになり,平成11年には要介護2、平成13年は要介護3の認定を受けたもので,その死亡まで自宅で被相続人を介護したCの負担は軽視できないものであること」から相続人Cの寄与分を認め、それを「遺産の15%」としました。
なお、療養看護に係る寄与分は、相続財産に対する割合ではなく、一定の金額として認定する場合もあります。例えば、大阪家庭裁判所平成19.2.26審判は、被相続人を療養看護した寄与分として、看護師家政婦紹介所が看護師等を派遣する際の標準賃金表による金額を基準にその2/3程度の金額を寄与分としています。

4 その他の方法
⑴ 被相続人のための相続放棄
前記最高裁判所の解釈運用では、父の相続で、母が1人の子に多く相続させたいと思い、相続を放棄したため、その子が遺産全部を相続した後に、その子が死亡して相続が開始し、その母と妻が相続人になった場合、母は以前にした相続放棄をもって寄与分と主張することができるかという問題を想定して、その場合は、共同相続人間の衡平を図るという趣旨からその場合母の寄与分の主張を認める、としています。
なお、これは夫婦間の離婚事件での財産分与のケースですが、夫婦とも養子だったのだが、養親の相続のとき、養女(妻)が養親の財産を全部相続し、養子(夫)は何も相続しなかったケースで、東京高等裁判所平成5年9月28日判決は、これは実質的に見て夫が妻に養親の相続分を贈与して妻の財産形成に寄与したものとみることができるから、この夫婦の離婚にあたっては、養親の相続時の法定相続分を限度として、妻から夫に対して財産分与をすべきであると判示しています。

⑵ 財産管理
  一般に、賃貸管理等は、第三者への委託の場合を基準に算定する場合が多いようですが、長崎家庭裁判所諫早出張所昭和62.9.1審判は、相続人が被相続人のために「土地売却にあたり借家人の立退交渉,家屋の取壊し,滅失登記手続,売買契約の締結等に努力したとの事実は認められるので,売却価格の増加に対する寄与はあつたものとみることができる。そして,その程度は,不動産仲介人の手数料基準をも考慮し,300万円と認めるのが相当である」としました。
⑶ 資産の運用
 大阪家庭裁判所平成19.2.26審判は、「株式,投資信託による資産運用には利益の可能性とともに,常に損失のリスクを伴う。しかるに,一部の相続人が被相続人の資産を運用した場合,その損失によるリスクは負担せずに,たまたま利益の生じた場合には寄与と主張することは,いわば自己に都合の良い面だけをつまみ食い的に主張するものであり,そのような利益に寄与分を認めることが相続人間の衡平に資するとは,一般的にはいいがたい。」と判示していますが、一般に資産の運用を寄与分とみるのは難しいようです。

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