遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 時間差
生前贈与と死亡と遺産分割協議との間には、時間差があるのが普通です。
被相続人が生前Aの時点で相続人になる者に財産を贈与し、Bの時点で死亡し相続が開始し、その後Cの時点で共同相続人間で遺産分割の協議をするまでの間に時間がかかる場合、相続財産や贈与財産の価額が変動している場合もあるでしょう。
そのような場合で、相続財産や贈与財産を金額で評価するとき、いつの時点を基準に評価をするべきなのでしょうか?
2 答え
答はB時点、つまり相続開始時です。
生前贈与された財産の評価も、A時点つまり贈与の時期の評価ではなく、B時点つまり相続開始時の評価になります。
民法904条は「前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。」と規定していますので、相続開始時の相続財産は無論のこと、贈与された財産も、相続開始の時点での評価額が基準になるのです。
3 金銭の贈与を受けた場合
贈与を受けた時と相続開始の時とで貨幣価値が違っている場合の事例で、新潟家庭裁判所昭和41.6.9審判は、贈与時の金額を、総理府(現内閣府)統計局編「家計調査年報」及び「消費者物価指数報告」に基づき変動させ、相続時の金額にしました。
東京小売物価指数により、相続開始時までの倍率を乗じて換算評価した事例もあります。
学資が特別受益になる場合も、物価指数に連動させて、相続開始時の評価額の贈与があったとした例もあります。
4 受贈者の行為によらないで贈与財産が滅失した場合
民法904条は、贈与された財産が受贈者の行為によって滅失した場合の規定ですので、受贈者の行為によらないで滅失したものについは、民法904条の反対解釈により、相続開始時に存在しているものとする扱いはできません。しかしながら、贈与財産が滅失した後で補償金を得た場合は、その補償金を贈与されたものとみて、物価上昇率で修正した金額が贈与財産の価額であるとした裁判例(大阪地方裁判所昭和40.1.18判決)があります。
5 遺留分算定の基礎となる財産に加える贈与が現金である場合
遺留分算定の基礎となるものは「被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除し」た価額ですが、最高裁判所昭和51.3.18判決は、「贈与した財産」が金銭である場合は、贈与の時の金額を相続開始時の貨幣価値に換算した価額をもって評価すべきである、としています。