遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
昨日のコラムの続きです。
【A宅地を遺言により遺贈した場合】
第1 特別受益の持戻しをする場合
1 夫が死亡
相続人・・・妻と嫡出の長男と嫡出の長女の3人
法定相続分又は指定相続分・・・遺言による相続分の指定はないので、法定相続分が適用・・・妻1/2、長男1/4、長女1/4
相続開始時の相続財産・・・1億000万円(a)で負債は0
3 みなし相続財産額
相続開始時の相続財産額に贈与の価額を加算したもの・・・(a)+0=1億円
4 仮の相続分の計算
みなし相続財産額に法定相続分又は指定相続分を乗じた金額を各相続人ごとに算出)
妻の仮の相続分は、1億円の1/2(法定相続分)=5000万円
長男の仮の相続分は、1億円の1/4(法定相続分)=2500万円
長女の仮の相続分は、1億円の1/4(法定相続分)=2500万円
5 具体的相続分の計算
相続人ごとに、仮の相続分から特別受益金額を控除した数字
この事例では、特別受益者は長男のみ。
妻の具体的相続分・・・5000万円-0=5000万円
長男の具体的相続分・・・2500万円-遺贈分6000万円=-3500万円(マイナスの数字は0と扱われる「相続53」参照)
長女の具体的相続分・・・2500万円-0=2500万円
これによる具体的相続分率は、
妻・・・5000÷7500
長女・・2500÷7500
6 各相続人の最終の取得分
相続開始時の相続財産×具体的相続分率
妻・・・4000万円×5000÷7500=2666万円
長女・・4000万円×2500÷7500=1333万円
で分け合います。
7 遺産分割協議
以上までの計算で、相続開始時の相続財産1億円については、そのうち6000万円相当のA宅地が長男に遺贈され、遺産分割協議時の相続財産4000万円からは、妻が2666万円、長女が1333万円を取得します。
妻と長女は、その後で遺産分割協議に入ります。
第2 長男への遺贈分につき持戻し免除された場合
1 具体的相続分
この場合は、第1の5の各相続人の具体的相続分の計算から違ってきます。
すなわち、具体的相続分は、相続人ごとに、仮の相続分から特別受益金額を控除した数字を意味しますが、この事例での唯一の特別受益者である長男への遺贈が、持戻し免除されましたので、結局、仮の相続分から控除するものはなく、具体的相続分は仮の相続分と同額なり、
妻の具体的相続分は、1億円の1/2(法定相続分)=5000万円
長男の具体的相続分は、1億円の1/4(法定相続分)=2500万円
長女の具体的相続分は、1億円の1/4(法定相続分)=2500万円
になります。
2 後の計算
この具体的相続分率は、法定相続分と一致しますので、
各相続人の最終の取得分は、相続開始時の相続財産4000万円の法定相続分を乗じた金額すなわち、
妻・・・4000万円×1/2=2000万円
長男・・4000万円×1/4=1000万円
長女・・4000万円×1/4=1000万円
になります。
長男は、別に時価6000万円のA宅地の遺贈を受けていますので遺留分侵害の問題はなく、妻と長女の遺留分が侵害されていることと、後の考えは、昨日のコラムで解説したところです。