遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 有責配偶者の意味
不貞行為を働く等して、自ら婚姻関係を破壊した者が、夫婦関係が破綻していることを理由に、離婚請求をする場合の、離婚請求をする者を「有責配偶者」と言います。
2 昔の判例
最高裁判所昭和27.2.19判決は、有責配偶者からの離婚請求は信義誠実の原則から認めない、と判示しました。
3 認めた判例
最高裁判所昭和62.9.2判決は、別居期間が36年にも及ぶ夫婦につき、有責配偶者からの離婚請求を認めました。
4 基準
前記最高裁判所判決は、有責配偶者からの離婚請求を認める基準を次の3つとしました。
① 別居期間が長期に及ぶこと。
② 夫婦間に未成熟の子がないこと。
③ 相手方配偶者が離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような事情がないこと。
5 ①の基準である有責配偶者からの離婚請求認容に必要な別居期間
その後、最高裁では,10年(昭和63.12.8判決),8年(平成2.11.8判決),9年(平成5.11.2判決)で有責配偶者からの離婚請求を認めていますが、8年(平成1.3.28日判決),11年(平成2.3.6判決)で棄却したものもあります。一応、最高裁の基準は,10年程度と思われます。
ただし,下級審では,約5年間という期間でも,その他の事情もあわせ,離婚請求を認めた例(福岡高裁宮崎支部平成17.3.15決定等)があります。
改正には至っていませんが,平成8年の民法改正要綱では,離婚原因として「夫婦が5年以上継続して婚姻の本旨に反する別居をしているとき。」が挙げられており,「5年以上」というのが破綻している(離婚が認められる)かどうかの1つの目安となろうかと思われますが、この点、有責配偶者からの離婚請求は、そうでない場合に比べ、長い期間が要求されている、と言えるでしょう。
6 ②の基準である未成熟子がいないこと。
未成熟子とは、親が扶養を要する子のことですが、子が高校生でも、離婚を認めた判例(最高裁平成6.2.8判決,東京高裁平成9.11.19判決など)もあります。
7 ③の基準である、相手方配偶者が離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれる事情がないこと
名古屋高裁平成20.4.8判決は、うつ病の妻との離婚請求について、「うつ病が治癒し,あるいは控訴人の病状についての被控訴人の理解が深まれば,控訴人と被控訴人の婚姻関係が改善することも期待できるところである」と,夫のうつ病への理解や治癒を待つ必要から,婚姻を認めませんでした。
東京高裁平成20.5.14判決では,妻が抑うつ症の事案で,「高齢に加えて,更年期障害,腰痛及び抑うつ症の疾病を患い,新たに職に就くことは極めて困難」として,「婚姻費用分担金の給付を受けることができなくなり,経済的な窮境に陥り,罹患する疾病に対する十分な治療を受けることすら危ぶまれる状況となることが容易に予想される」として,(未成熟子ではないが犯罪傾向があり援助が必要な子がいることも理由に含め,)離婚を認めませんでした。(夫は、約1200万円の慰謝料を提示していましたが,窮状に置かれるとの認定は左右されない,と判示しています。)
以上から推測して、前記4の基準をより具体的にしますと、有責配偶者からの離婚請求は、別居期間が10年程度に及ぶこと、②その間に未成熟の子が存在しないこと、又は、存在しても十分な扶養料を支払うなどの配慮をしていること、③相手方配偶者がうつ病その他に罹患していないこと、罹患していても生活の不安のない手だてを講じていることの要件が必要になるのではないかと思います。