遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 無効です。
最高裁平成16.7.13判決は,名古屋市の市長が、名古屋市の代表者として、また財団法人世界デザイン博覧会協会の代表者として、名古屋市と財団法人世界デザイン博覧会協会間で結んだ物品売買契約について,「普通地方公共団体の長が地方公共団体を代表して行う契約の締結には,民法108条が類推適用されると解するのが相当である」と判示しました。
民法108条というのは、双方代理を禁じた規定です。条文は「同一の法律行為については、相手方の代理人となり、又は当事者双方の代理人となることはできない。」というものです。
民法108条に違反する行為は、代理権のない者が締結した契約(無権代理行為)として無効になります。
2 では、どう対処するのか?
⑴ 1つの方法ー議会の承認による追認
上記最高裁平成16年判決は,民法108条に反し無効になる法律行為でも、「同法116条の「追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。」が類推適用され,議会が、長による双方代理行為を追認したときには,普通地方公共団体に法律効果が帰属する、つまりは有効になる、と判示しています。
つまり,議会が承認すれば,契約の効果が市に帰属し,有効なものとして扱えることになるのです。
⑵ 2つめの方法
地方公共団体の場合には、地方自治法第153条1項により、長は「その権限に属する事務の一部をその補助機関である職員に委任し、又はこれに臨時に代理させることができる。」 とされています。そこで、民法108条の双方代理禁止規定の適用を回避するため、いずれかの当事者の代表者を市長でなくすればよいのですから、双方代理にあたる場合は,市長の権限を副市長以下の補助機関に委任すればよいのです。通常、各自治体には、そのための規定、例えば「市長の権限に属する事務の一部を副市長に委任する規則」が置かれているはずです。