遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 問題
営業活動のために、一般の消費者の居宅や事業所を訪問する事業者(従業員)は多いと思われますが、その営業形態が、ときに、住居侵入罪に該当することがあります。
では、どのような場合に、住居侵入罪を構成することになるのでしょうか?
2 基準
最高裁判所昭和58.4.8判決は、その基準1として
① 立ち入り拒否の張り紙等により、立入拒否の意思を明示している場合
この場合は、立ち入る行為自体を住居侵入罪に該当する、としています。
この基準を受けて、最高裁判所平成21.11.30判決は、マンションの玄関ホールの掲示板に「チラシ・パンフレット等広告の投函は固く禁じます」「当マンションの敷地内に立入り、パンフレットの投函、物品販売などを行うことは厳禁です」等記載した貼り紙が貼付されており、かつビラの配布者がこれら貼り紙の記載内容を認識しながら、同マンション共有部分(廊下、エレベータホール等)に立ち入り、各住戸の玄関ポストにビラを配布した行為につき住居侵入罪の成立を認めています。ただ、この事案は、営業として立ち入ったのではなく、政治活動としてビラを配布する目的で立ち入った事例ですが、営業用でも同じ基準になると思われます。
最高裁判所昭和58.4.8判決は、その基準2として
② 立入拒否の意思が明示されていない場合
この場合は、当該建物の性質、使用目的、管理状況、管理権者の態度、立入の目的等からみて、現に行われた立入行為について居住者等が容認していないと合理的に判断される場合は、居住者等の意思に反したものとして、住居侵入罪を構成する、としています。
このようなケースで有罪になった事案のほとんどは、立ち入り目的が、窃盗、強盗など、住居の平穏を乱す犯罪目的である場合です。
このような犯罪の目的で立ち入るのは、「居住者等が容認していないと合理的に判断される場合」であること、明らかでしょう。
問題は、営業目的の場合ですが、
ア その居宅の住民に訪問の趣旨を伝える方法として門扉に呼び鈴を設置している場合に、呼び鈴を押さないで、閉まっている門扉を開けて敷地内に入る、あるいはさらに居宅のドアや戸を開いて玄関に入るのは、「居住者等が容認していないと合理的に判断される場合」といえるでしょう。
イ これに対し、その居宅の住民に訪問の趣旨を伝えるには、居宅に設置されて呼び鈴を押すしか方法がない場合は、敷地内に入って居宅に設置された呼び鈴を押す行為は問題はなく、居宅に呼び鈴がない場合は、玄関のドアや戸を開けて、1歩中に入る行為も許されるでしょう。
ですから、イの場合は、住居侵入罪には当たりません。また、アの場合でも、住居侵入罪に該当するとは言えないケースが多いと思われます。それは、住居侵入罪が故意犯だからです。つまり、住居侵入罪が成立するには、侵入者に、住居に侵入することが住居の平穏を害する結果になるとの認識が必要になるからです。窃盗や強盗目的ならば、住居や敷地に立ち入る行為が住居の平穏を害することを知っている(故意がある)と言えますが、営業活動の一環として立ち入る場合は、それが住居の平穏を害する行為になるとの認識(故意)があったと言える場合は少ないと思われるからです。