遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 可分債権は遺産分割協議の必要はない
最高裁判所昭和29.4.8判決は、相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭債権等の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とするとし、可分債権は遺産分割協議の必要はないと判示しましたが、この理は、遺産のうち、預金などの「可分債権」すなわち、観念的に同質のものに分割が可能な財産である債権は、遺産分割によらないで、当然に、そのうちの相続分を取得できるということなのです。
2 遺産分割の対象にすることは可能
ただ、預金など確実に回収可能な債権は、ほとんど現金と同じ感覚で扱うことが出来ますので、その他の遺産、例えば不動産の分割をするときに、共同相続人間で必ずしも予定している相続分どおりに財産を取得できないような場合、その不均衡を是正するために預金を法定相続分とは異なる配分にすることで調整することできますので、預金を遺産分割の対象にした方が良い場合があります。
ですから、裁判所は、共同相続人が全員預金を遺産分割の対象にすることに同意した場合は、遺産分割の審判の対象にできるとしているのです(東京高裁平成14年2月15日決定)。
実務では、預金を遺産分割の対象資産としている場合が結構あります。他の共同相続人から異議が出ない場合は、これを分割対象にしているが現状であると思えます。
なお、金融機関によっては、共同相続人の全員の同意がないと相続預金の払い戻し請求に応じないところがあるようですが、法的にはそれは許されないことですので、訴訟を起こせば、年5%もの遅延損害金つきで支払ってもらえます。
3 定額貯金の場合
このように、預金は可分債権であるので、遺産分割をしなくても、当然に各共同相続人に法定相続分で取得する、といっても、ゆうちょ銀行の定額貯金は、預入時から10年間は払い戻し請求ができません(旧郵便貯金法の定めですが、現在でも有効)ので、その間は、相続人からの法定相続分の割合による払い戻し請求はできません(東京高裁平成11.3.25判決)。この定額貯金は、可分債権でありますが、相続人が単独で払い戻し請求が出来ないために、遺産分割の対象として扱われます。
定期預金も、満期までは定額郵便貯金と同じ扱いになる、と考えられます。