遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
遺言者が死亡したとき、遺贈財産がない場合は、受遺者はなにももらえないのか?
1 原則
民法996条1項本文は、「遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。」と規定しています。
ですから、遺言者がもっていない財産を、遺贈するという遺言は、その部分に関しては、無効です。
これにより、遺言者は、安心して、いたずら心を示し、甥や姪に、ピカソの絵10点を遺贈するなどと、書けるでしょう。
2 例外
預金債権などの金銭債権
民法1001条2項は「金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。」との規定がありますので、例えば、遺言者が、○○銀行△△支店にある100万円の定期預金を甲に遺贈する。」と遺言を書けば、そのような定期預金がない場合でも、100万円を遺贈したと推定されることになりますので、遺贈義務者は受遺者に100万円を支払わねばならない場合が生じます。
実務で経験するところでは、遺言者が、銀行名や支店名、預金の種類や預金口座を間違えている場合があります。遺言では、○○銀行△△支店にある定期預金100万円と書いていても、その銀行には定期預金はなく、□銀行の☆支店に120万円の定期預金があるなどの場合です。
そのような遺言も、996条1項で、目的物がないので、遺贈は無効だ、という扱いを受けるのではなく、1002条2項で、受遺者は遺贈義務者から100万円をもらうことができることになります。
ただし、その預金が普通預金である場合は、普通預金の中味は、遺言者が生きている間にいつでも与えることができるものですので、遺贈の対象になる普通預金というのは、遺言者が死亡したときに残っている金額に限られると考えられています。