遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
包括受遺者が、遺贈を放棄する場合は、民法990条の「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」との規定を根拠に、相続人がする相続放棄と同じ手続、つまりは家庭裁判所への放棄の申述の手続をしなければならない、と昨日のコラム「相続32」に書きましたが、しかしながら、包括受遺者は、すべての面で、相続人と同じ、というものではありません。
そこで、その違いをまとめてみます。
1 包括遺贈に関しては、代襲相続は発生しない。
遺言者が死亡したとき、相続が開始しますが、そのとき第1順位の子がすでに死亡していて、その子に子(孫)がいる場合、あるいは、第3順位の兄弟姉妹が死亡していてその兄弟姉妹に子(甥・姪)がいる場合、子や兄弟姉妹の相続分は、孫や甥・姪が代襲相続します。
しかしながら、包括遺贈の場合は、民法994条1項で「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」との規定があり、包括受遺者に子がいても、その子が受遺者になることはありません。
2 包括遺贈を受け、不動産の所有者になった場合、不動産にその旨の登記手続をしないでいると、相続人あるいは相続人の債権者が、その不動産を相続人の名義にし、その上に第三者が権利を取得すると、包括受遺者が権利を失う場合がある
これはコラム「相続29」で解説しました。
3 保険金受取人に指定された「相続人」には、包括受遺者は含まれない
最高裁判所昭和40.2.2判決の事案は、遺言者には相続人と包括受遺者がいて、遺言者が生前結んでいた養老保険契約での死亡保険金受取人を「相続人」と定めていたケースです。この場合、死亡保険金は相続人が取得するのか、包括受遺者が取得するのかという争いが生じたのですが、最高裁判所は、この場合の保険金受取人になる「相続人」とは、遺言者が死亡したときの「相続人たるべき者個人」であるとして、包括受遺者が「相続人」であることを否定しました。
今度は、逆に、包括受遺者が相続人と同じ扱いを受けるところを解説します。
1 包括受遺者が遺贈を放棄する場合は、相続人と同じ、家庭裁判所への申述が必要になります(コラム「相続32」参照)。
2 相続人不存在手続は不要
相続人が誰もいない場合、相続財産を管理するために、民法951条で、相続財産を法人にして、その後、その管理手続に入ります。これを「相続人不存在手続」と言いますが最高裁判所平成9.9.12判決は、相続人不存在手続は、相続財産の帰属すべき者が明らかでない場合におけるその管理、清算等の方法を定めたものである。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有し(民法990条)、遺言者の死亡の時から原則として同人の財産に属した一切の権利義務を承継するものである。だから、相続財産の帰属すべき者が明らかでない場合に該当せず、相続人不存在手続に入る必要はない旨判示しました。
3 その他
遺産を包括承継する点、相続人又は他の包括承継者と遺産を共有し、遺産分割手続によってのみ、その共有関係を解消しうる点が、相続人の場合と、同じです。