遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1 検認は、遺言執行の事実上の要件
自筆証書遺言は、家庭裁判所の「検認」を受けないと、その執行はできません。
遺言の効力そのものは、民法985条で「遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。」と定めているとおり、遺言者の死亡時に生じますが、遺言の内容を実現するためには、「検認」がいるのです。
検認を得ない自筆証書遺言に基づき、相続登記申請をしても、法務局は受理してくれません(平成7.12.4民三4343法務省民事局第三課長回答)。
2 検認の目的
遺言書の検認は、遺言の方式、記載内容その他一切の外部的状態を調査して、その状態を保全する一種の検証手続ないしは保全手続です。遺言の効力には、直接影響を与えません。
3 遺言の効力に影響を与えない
遺言の検認は、遺言書の効力に影響を与えるものではありません。
検認を得た遺言の効力を争う場合は、遺言無効確認訴訟を起こすことになります。
4 検認手続
⑴ 検認の請求
民法1004条1項は、「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。」と定めているとおり、検認は、遺言書の保管者又は発見者の請求によってなされます。
⑵ 相続人の立会
民法10047条3項は、「封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。」と規定していますが、封印のない遺言書の場合も、家庭裁判所は、相続人又はその代理人に立会の機会を与えています。
このことにより、相続人は、遺言の存在と内容を知る機会が与えられることになっているのです。
⑶ 検認調書
検認が終了すれば、家庭裁判所は検認調書を作り、遺言書には、検認済みに証明書をつけてくれます。これを得れば、不動産の名義の書き換え、預金の払い戻しの手続に進めます。
5 公正証書遺言には検認の手続はない
検認の目的が、遺言の方式、記載内容その他一切の外部的状態を調査して、その状態を保全する一種の検証手続ないしは保全手続である以上、公証人のもとで厳重に保管されている公正証書遺言には、検認手続は必要ではなく、民法1004条2項は、検認に関する1項の「規定は、公正証書による遺言については、適用しない。」としています。
6 禁止行為
民法1005条は「前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処する。」と定めています。
7 相続欠格理由
遺言書の保管者が、検認の請求をしないで、遺言書を「隠匿」した、とされたときは、その者が相続人である場合、相続人の資格を失います(民法891条5号)。