遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
暫く休んでいました、「相続」を再開し、ここ暫くの間、遺言に関することを連載する予定です。遺言に関することを網羅的に書きますので、一部「相続13遺言」の内容と重なりますが、ご容赦下さい。
再開第1号は、遺言の原則です。
遺言をするには、原則があります。
1遺言自由の原則
遺言をしたい人は、いつでも自由に遺言が出来(民法961条)、いったんした遺言をいつでも自由に撤回できる、(民法1022条)という原則です。前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされますので、(民法1023条)。この方法で、遺言を撤回することもできます。
2要式主義(民法960条)
遺言の効力が生ずるのは、遺言者が亡くなったときです(民法985条)から、それまでに遺言が偽造された場合、遺言が本人の書いたものか偽造されたものかを本人に確認するすべはありません。そこで、法は、遺言をするときに、偽造防止などの目的で、厳格な方式を要求しているのです。
方式の第1は、原則として、書面による、ことです。口頭遺言もありますが、例外です。
3遺言能力
民法963条は「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」と規定し、遺言をするのに、一定の能力を要求しています。その能力は売買契約など法律行為をするのに必要な「行為能力」までは要求されず、「意思能力」で足りるとされています(判例・学説)。
ですから、民法961条で、「15歳に達した者は、遺言をすることができ」、民法962条で、制限行為能力者(被保佐人や被補助人)は保佐人等の同意がなくとも自由に遺言が出来ることを定め、また、民法973条で、成年被後見人ですら、「事理を弁識する能力を一時回復した時において医師2人以上の立会い」のもとでなら、遺言が出来ることを規定しています。
実務では、高齢者、とくに認知症にかかった人の遺言の効力が争われるトラブルが多数発生しています。
4遺言事項が限られる
遺言は何を書いても有効になる、というものではなく、法律上遺言で定めることができるものは、次の① ~ ⑮です(かっこ内の数字だけのものは民法の条文です)が、判例で⑯も遺言で定めることができるとされています。なお、☆をつけたものは、遺言以外の方法でもできるものです。
☆① 推定相続人の廃除・取消(892~894)
② 相続分の指定・指定の委託(902)
☆③ 特別受益の持ち戻しの免除(903③)
④ 遺産分割の方法の指定・指定の委託(908前段)
⑤ 遺産分割の禁止(908後段)
⑥ 共同相続人の担保責任の減免・加重(914.911)
⑦ 遺贈の減殺の順序・割合の指定(1034但書)
☆⑧ 遺贈(964生前行為なら贈与549)
☆⑨ 一般財団法人設立のための寄付行為
(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律164)
☆⑩ 信託の設定(信託法3)
☆⑪ 認知(781)
⑫ 未年者の後見人指定(839①)
⑬ 未成年後見監督人の指定(848)
⑭ 遺言執行者の指定・指定の委託(1006①)
☆⑮ 祖先の祭祀主宰者の指定(897① 但書)
☆⑯ 生命保険金受取人の指定・変更(東京高裁平成10年3月25日判決)
なお、ここで、以上の16項目以外の内容を書き、その条項が無効になった例をあげてみます。
無効になった遺言事項の例
・受遺者の選定及びこれに対する遺贈額の割り当てを第三者に一任する遺言(大審院昭和14.10.13判決)
・特定の遺産を除いたすべての遺産の処分を第三者に委託する遺言(東京地裁昭和53..9.27判決)など
なお、特定の遺言事項が無効になっても、そのことで、ただちに、他の遺言事項が無効になるものではありません。
5遺言の解釈が問題になることがある。
遺言の効力が問題になるときは、本人が亡くなった後です。
そのとき、遺言の意味内容が分からないという場合があります。
そこで、遺言の解釈が問題になるのです。
これは、このコラムで、今後、具体的な問題となって出てくるはずです。