遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで①
1相続財産である賃貸マンションから生ずる賃料債権は、相続財産か?
これは場合分けが必要です。つまり、
①相続開始時までに発生しているものは、相続財産です。
②しかしながら、相続開始時以後発生するものは相続財産にはなりません。これも明白です。
相続財産とは、被相続人が、相続開始時までに有していた財産だからです。
2では、相続開始時、遺産分割協議が整うまでに発生する賃料債権は誰のものか?
これまでの見解の対立
これについては、次の最高裁の判決が出るまで、下級審では、①遺産分割協議の結果、そのマンションの所有者になった相続人が、相続開始後遺産分割までの賃料債権を取得する、という見解と、②相続開始後遺産分割までの賃料債権は、共同相続人がその相続分の割合で取得する、という見解に分かれていました。
①の見解の根拠は、民法896条の「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」という規定の存在です。
この規定では、遺産分割でマンションを取得した相続人は、相続開始の時からマンションの所有者になっていることになりますので、相続開始の時からマンションの所有者なら、その時以後マンションから生ずる賃料債権は、その相続人に帰属するのは当然だ、ということになるのです。
②の根拠は、民法898条の「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」という規定の存在です。この規定は、遺産分割協議の結果、マンションが1人の相続人に帰属することになっても、それまでは、マンションは共同相続人の共有であるのだから、その間に生ずる賃料債権も、共同相続人のものになる。賃料は可分債権なので、共有ではなく、共有の割合、つまり相続分に応じて分割されるというのです。
最高裁判決による決着
最高裁平成17.9.8判決は、「相続開始から遺産分割までの間に遺産である賃貸不動産から生ずる賃料債権は、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解するのが相当であり、後にされた遺産分割の影響を受けない」と判示し、この問題に決着をつけました。
賃貸マンションから揚がる賃料は無視できる金額ではなく、遺産分割協議に時間がかかるとこの間の賃料総額もずいぶん大きな金額になりますが、これが遺産分割の結果マンションの所有者になった者だけが全額取得するのか、共同相続人全員が相続分の割合で取得するのかは、大きな問題でしたが、この最高裁の判決により、決着を見たことは法的安定を得た思いです。