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太田英之(おおたひでゆき) / 司法書士

クローバー司法書士事務所

コラム

遺産分割協議がスムーズに進む?相続分譲渡の手順や注意点とは

2019年11月20日

テーマ:相続

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 相続 手続き

遺産相続の対象となる財産は、相続人によって引き継がれるのが基本です。ここで、「基本」と書いたので「例外があるのか」と思った人もいるでしょう。

相続には確かに例外はあります。それが、「相続分譲渡」と呼ばれるものです。この言葉を初めて聞いたという人も多いと思います。ここでは、「相続分譲渡」についてご説明します。

相続分譲渡とは

相続分譲渡とは、相続人が本来は自分が受け継ぐべき相続分の財産を他の相続人や第三者に譲渡することを言います。つまり、相続人としての地位そのものを譲り渡すことです。

似たようなものに、相続人としての地位を放棄する「相続放棄」というものがあります。

相続人がその地位を手放すという点では似ていますが、相続放棄との違いは、相続分譲渡は財産を手にすることができるという点で異なります。
相続放棄は、相続することそのものを放棄することになりますから、財産を受け取ることはできません。

相続分譲渡は、相続分を他人に譲渡することですから、譲渡した人は相応の金銭を受け取ることも可能ですし、譲り受けた人は相続人と同じ力をもち、相続分の取得をすることができます。この点が大きな違いです。

相続分譲渡のメリット

「相続分を譲渡するメリットがわからない」という人もいるかと思いますが、実は相続上では大きな意味を持ちます。それは、特に相続財産に不動産や株式が存在する場合です。

金銭だけであれば、相続分に従って分割するのである面で簡単ではありますが、財産に土地や株などがある場合、名義書き換えや土地の分割など面倒な手続きが必要になります。

相続人の中に「そんな面倒な手続きはいらないから、早く遺産がほしい」という人がいたとします。そのような相続人は、先に他の相続人に相続分を譲渡し、お金をもらうことができるのです。譲渡した側は遺産分割協議に巻き込まれずに財産がもらえますし、譲渡された側も合意を得るべき相手が減るので、協議やその他の手続きがスムーズに進めやすくなります。

譲渡の手続き

では、その相続分譲渡ですが、どのように手続きを進めるのでしょうか。

簡単に言うと口約束でも十分です。契約という法律行為は、お互いの合意があれば、それだけで有効になります。譲渡する側と譲渡される側が、譲渡額で合意に達して、金銭が支払われれば成立です。

しかし、そうではあるものの、後々大きなトラブルになる可能性を考慮し、「相続分譲渡契約書」を取り交わすことが一般的です。合わせて、「相続分譲渡証書」の作成も必須と言えます。また、相続分譲渡が効力を有するには、次の要件を満たさねばなりません。

【遺産分割前に合意し、契約を交わすこと】
遺産分割が始まる前に、譲渡先を決めておかないとその効力はありません。
なお、この譲渡に関しては、他の相続人の承認や合意は不要です。しかし、他の相続人に対して、相続分譲渡をした旨の通知は必要となりますので、無用のトラブルを避けるためにも、他の相続人に内容証明郵便などで通知を行いましょう。

相続分譲渡の注意点

基本的に民法の規定は、相続がスムーズに進むために作られたものです。相続分譲渡も例外ではありません。そのため、相続に支障が出る場合には、別に何らかの手だてが講じられています。

相続分譲渡は、他の相続人でも第三者でも譲渡が可能だと先に書きました、その狙いは、遺産分割協議の当事者を減らして、相続がスムーズに進められるようにすることを目的にしています。

しかし、第三者に譲渡をした場合、他の相続人にとっては、赤の他人が協議の場に入ることになります。そのことでかえって協議が進まない事態に陥る可能性もあります。

その際に認められているのが、「相続分の取り戻し」です。

これは、相続分が第三者に譲渡された場合は、他の相続人が譲渡された相続分を第三者から取り戻せる制度です。
ただし、この取り戻しは、譲渡されてから1カ月以内に譲り受けた第三者に相続分の価格を支払うことが要件になります。

また、相続時における債務の扱いにも注意が必要です。相続分を譲渡した場合、相続人の地位は失いますが、債務に関しては連帯責任を引き継ぐ必要があります。お金をもらって「いいとこ取り」をしようとしても、できないように規定されているのです。
ただ、この点は契約時に債務に関する取り決めをしておくことで譲渡した人が債務を負わないようにすることができます。いずれにせよ、契約時の条件がとても重要になります。

さらに、最近の最高裁において、大きな判決が出されました。相続人に対し無償で相続分を譲渡した場合(相続分譲渡は有償・無償を問わない)、原則として「贈与」として扱うという内容の判例です。贈与として扱われると、遺留分減殺請求の対象となりトラブルに発展する可能性もあります。この件については、今後の相続分譲渡を行う際の契約内容に大きな影響を与えるものと思われます。

相続は非常にデリケートな問題です。また、被相続人の死亡の直後から協議が必要になってきますので、心理的にもつらい状況で「難しい判断を下さなければならない」ということが多々出てきます。

こうした際には、相続人が後々に判断ミスを悔いたり、遺恨が残ったり…というケースも珍しくありません。こうした事態を避けるためにも、司法書士などの専門家に相談して、トラブルや後悔がないようにしていただきたいと思います。

この記事を書いたプロ

太田英之

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太田英之(クローバー司法書士事務所)

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