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太田英之(おおたひでゆき) / 司法書士

クローバー司法書士事務所

コラム

家族信託に関わる税金と相続対策

2020年1月10日

テーマ:家族信託

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 家族信託 流れ

わが国では「利益を受け取る人」に課税されるのが税の大原則です。
相続税や所得税といった税金は、受託者ではなく受益者に課せられることになります。相続対策においても、家族信託は二代先の財産の承継先を決めることができるので、委託者の思い通りの相続を実現できます。

家族信託では受益者が課税の対象

家族信託ではどのような税金はかかるのでしょうか?また、それは誰が負担するのでしょうか?
この点は相続とも密接に関係してくるところですので、家族信託をするうえでポイントとなります。

私たちの国では名義や契約内容に関係なく、「利益を受け取る人」に課税されるのが税の大原則です。委託者が亡くなり、相続が発生した場合に誰が税を負担するのかという基本的な考え方はこの大原則に則ります。

【相続税は新たな受益者に課税】
信託財産は委託者が亡くなることによって、ほかの財産も含めて評価され相続税が算出されます。そして新たな受益者が相続税を負担することになります。この際に、相続に伴う配偶者控除、小規模宅地の評価減などの特例も、条件が整っていれば利用することができます。

家族信託に発生する相続税以外の税金

相続税以外には、どのような税金が発生するのかを見ていきましょう。

【所得税は受益者に課税】
賃貸住宅の事例で考えると、委託者が所有している賃貸住宅を信託財産として受託者が管理・運用しているとします。

その場合、家賃収入を得るのは受託者ではなく「受益者」です。すなわち受益者が家賃収入にかかる所得税を負担することになります。委託者と受益者が同一人でない場合、委託者は利益を得る立場ではないので、課税対象にはなりません。

【贈与税は受益者に課税】
個人から財産をもらったときには「贈与税」が課せられます。家族信託を行うと、委託者から受託者に財産の所有権が形式的に移転しますが、受託者が贈与税の対象となるわけではありません。

家族信託は、実質的には委託者から受益者への贈与と考えられるため、贈与税を課せられるのは「受益者」になります。委託者と受益者が同一人という家族信託の一般的なケースでは、委託者から受益者に贈与されたことにはならないので、受益者は課税対象となりません。

【固定資産税の実質的な負担者は受益者】
不動産の所有者には固定資産税がかかります。家族信託でも、不動産の名義人である受託者のところに固定資産税の通知が届きます。固定資産税は、受託者が市町村に納付しなければなりませんが、固定資産税は信託財産の管理費用になるため、信託財産から払うことができます(実質的な負担者は受益者ということになります)。

【受益権を譲渡した場合も課税される】
受益権は債権ですので、他人に譲渡することが可能です。家族信託を組んだあと、受益権を他人に譲渡した場合、新しい受益者に譲渡税が課せられます。受益権を有償で譲渡した場合には、元の受益者は譲渡所得税の課税対象となります。

【不動産取得税は課税されない】
不動産取得税は、不動産の取得権を得たときに課税されます。家族信託で不動産を信託した場合には、受託者への所有権の移転が行われます。しかし、受託者は形式的な名義人にすぎないため、受託者は不動産取得税の対象とはなりません。

受益者は不動産から利益を得ているので、課税対象となるような気がしますが、受益者は不動産の所有権を取得していないので、不動産取得税の課税対象とはなりません。つまり受託者も受益者のいずれも不動産取得税は課税されないということになります。

【不動産の信託では登録免許税は受託者に課せられる】
家族信託で課税されるのは基本的には受益者ですが、信託財産が不動産である場合は、受託者にも課税される場合があります。

信託財産に不動産が含まれる場合は、法務局で所有権移転登記と信託登記を行う必要があります。
登記申請時には、登録免許税を支払う必要があります。信託登記の登録免許税は、固定資産評価額の0.4%。土地については0.3%の軽減措置があります。所有権移転登記については、登録免許税法により非課税となっています。

家族信託を利用した相続税対策の方法

家族信託はそれぞれの家庭の実情に応じて、オーダーメイドで作成することが可能です。委託者が認知症になった場合でも、家族信託で信頼できる人に財産管理を任せておけば、相続税対策を滞りなく進めることができます。

委託者が亡くなった後、委託者の長男が自宅を相続した場合、長男の死後はその妻が相続することになります。長男に子供がいなければ、長男の妻が亡くなった後は自宅は長男の妻の家系に引き継がれていきます。先祖代々の土地や家屋が、他人の家系に渡ってしまうことは避けたいと思う人もいるでしょう。

このような場合、長男の妻が亡くなった後は、次男に自宅を引き継がせるというように指定したり、まだ生まれていない孫を承継先に指定することも可能なので、自分の希望通りの家督相続を実現することが可能です。

加えて、毎月定額を指定口座に振り込むというように条件付きの契約もできるので、知的障がい者や未成年者などの判断能力が不十分な人に財産を残したいときに、確実に財産を承継できるという大きなメリットもあります。


家族信託は、直接的には節税対策にはなりません。というのは、家族信託は相続税を減らすことが本来の目的ではないからです。

不動産の売却や資産の組み換えで、結果的に節税対策になることがありますが、あくまで副次的な効果です。その点をきちんと理解していないと、スムーズな財産の承継という本来の目的を見失い、相続トラブルを引き起こす可能性が高くなりますので注意が必要です。

この記事を書いたプロ

太田英之

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