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太田英之

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太田英之(おおたひでゆき) / 司法書士

クローバー司法書士事務所

コラム

信頼できる家族に財産管理を委託する家族信託のメリット、デメリット

2020年1月6日

テーマ:家族信託

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 家族信託 流れ

家族信託は受益権を自分に残したまま、管理権を家族などの信頼できる人に信託する財産管理の手法です。
あらかじめ定めた目的の範囲内なら、信託された人(受託者)は自由に運用することができます。柔軟に財産管理ができることや、遺言書の機能を持たすことなどのさまざまなメリットがあります。

家族信託とは

家族信託とは、自分(委託者)の財産を家族などの信頼できる人(受託者)に信託し、あらかじめ定めた目的に従って自分のために管理・運用してもらう財産管理の手法です。

例えば、あなたが賃貸住宅を所有していたとします。賃貸住宅を所有しているということは不動産賃貸業を営むのと同様にさまざまな業務が発生します。自分に判断能力があるうちに、賃貸住宅の管理・運用を子供などに信託し、家賃などの利益をあなたが受け取る仕組みが家族信託です。

所有権は管理権と受益権から成り立つ

財産を信託すると、受託者は管理や運用を行う必要があるので、信託財産の名義は委託者から受託者へと移ります。しかし、信託財産が受託者のものになるわけではありません。この点について理解を深めるために、所有権について詳しく説明します。

不動産の持ち主には所有権がありますが、所有権は2つの権利から成り立っています。

1つは、その不動産を管理する権利です(管理権)。その不動産を修繕したり建て替えたり、売却する権利で、法律上は所有者にしか行うことはできません。

もう1つはその不動産から利益を得る権利です(受益権)。その不動産から得られる家賃や売却益は、法律上は所有権を持った人のものになります。家族信託は受益権を委託者に残したまま、管理権だけを受託者に移すという仕組みです。これが。この制度の最大の特徴といえるでしょう。

家族信託のメリットについて

【1:認知症による資産凍結対策】
高齢化が進むともに、認知症になる人も増加すると言われています。親の判断能力のあるうちに、財産管理を子供に託すことによって、親が認知症になった後でも、その資産は凍結されません。
あらかじめ定めた目的の範囲内なら子供は自由に運用できるので、親が所有している賃貸住宅の修繕や売却、空き家となった親の自宅の処分を子供の判断で行うことができます。

【2:柔軟な財産管理ができる】
家族信託とよく似た制度に成年後見制度があります。しかし、成年後見制度には家庭裁判所への定期的な報告義務があります。後見監督人が選任された場合は、後見監督人への報酬が発生します。

また、成年後見人として家族が選任されない場合があるうえ、不動産などの財産を処分するのは本人にとってそれが必要である場合などに限られ、家庭裁判所の許可が必要になります。

その点、家族信託は本人の判断能力があるうちに、その意思を信託契約書に残しているので、あらかじめ定めた目的の範囲内なら財産管理を託された人は柔軟かつ積極的な財産管理を行うことができます。成年後見制度ではできない、老朽化した賃貸物件の建て替え、融資による賃貸住宅の建設、遊休不動産の開発などの「相続対策」が可能となります。

【3:遺言書の機能を持たすことができる】
家族信託は本人の死後の財産管理についても指定することができます。本人の死後、その配偶者が遺産を相続した場合に相続人が認知症になっていたとしても、遺産の管理権は受託者である子供にあるので、引き続き配偶者の生活費を子供が捻出することができます。

【4:思い通りの資産承継が可能】
遺言書で遺産の承継先を指定できるのは一代までですが、家族信託では30年以内なら世代を超えた財産の承継先を指定することができます。

また一次相続で財産を相続した者が認知症や障害により財産の次の承継先を指定することができない場合には、その人に代わって承継者を指定することができるので、後々の遺産分割協議による争いを防ぐことができます。

【5:共有不動産のトラブルを回避】
不動産を共有名義にしている場合、名義人全員の同意がない不動産を売買できないので、処分する必要があっても売却できないという事態に陥ることがあります。

家族信託なら受託者が自分の意思で不動産を売買できるので、そのようなトラブルを防ぐことができます。

家族信託のデメリット

【1:損益通算できない】
信託財産の中に収益不動産がある場合、この収益物件の年間収支上の赤字はなかったものとみなされます(租税特別措置法41の4の2)。

信託不動産の損失は、信託財産以外からの所得と損益通算することや、その損失の翌年への繰り越しもできません。
また信託契約を複数に分けた場合も、信託契約をまたいだ損益通算もできないので、税務上の不利益が生じる場合があります。

相続発生時における財産評価の減額効果はないので、節税効果は得られません。

【2:限界がある】
遺留分減殺対象財産の順序指定は、遺言でなければ対応できません。

また、相続財産のすべてを生前の信託契約で網羅するのは難しいのが現実です。そのため、信託財産から漏れる財産について遺産分割協議を避けるには、信託契約とは別に遺言書を作成し、すべての遺産の承継先を指定しておく必要があります。

もうひとつの限界として、身上監護の問題があります。受託者には身上監護権がないので、委託者の入院手続きや施設の入所手続きをすることはできません。身上監護権が必要な場合は、成年後見制度を利用して後見人による支援が必要となってきます。

【3:実務に精通した専門家が少なく、報酬は高い】
家族信託は2006年に誕生した制度で、司法書士、弁護士、税理士、公証人といった専門家でも十分な知識を持った人が少ないのが現状です。多方面の法律の知識が求められますし、契約が締結すれば終わりではなく、信託契約が続く限り継続的にサポートに関わるので、相談料や報酬は遺言書の作成費用や成年後見制度よりも高めです。

【4:長期にわたり当事者を拘束】
信託の持つ機能に「資産承継の指定(遺言の代用)」、詳しくいうと「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」があります。

一次相続だけでなく、二次以降の財産承継者まで委託者に決定権があるという機能です。それゆえ何世代にもわたり、財産の処分に制限をかけることにもなりかねず、相続時のトラブルや不測の事態を招く可能性は否定できません。


家族信託には多くのメリットがあり使い勝手のいい制度ですが、短所もあります。家族信託の本来の目的を達成するためには、家族信託の長所と短所をよく理解し、信託の内容をしっかりと設計しておく必要があります。

この記事を書いたプロ

太田英之

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