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森欣史

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森欣史(もりよしふみ) / 司法書士

金沢みらい共同事務所(森司法書士・行政書士事務所)

コラム

事実婚の夫婦では相続できない?

2014年1月17日

テーマ:遺産相続争いの実態

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: 相続 手続き

 前号では、「妻以外の女性」との間で産まれた子についての、相続に関するお話しをしました。また、「妻以外の女性」といっても、いわゆる「愛人関係」や「不倫関係」以外に、「内縁関係」や「事実婚」のように、外見上は夫婦として暮らしているが、籍は入れていない場合についても触れました。
  
 余談ですが、「内縁」は社会一般においては夫婦としての実質がありながら、婚姻の届出を欠いているために法律上の夫婦と認められない関係をいいます。戦前の民法では「家制度」があり、婚姻には戸主の同意が必要とされていたことや、男性は30歳・女性は25歳に達するまで婚姻には親の同意を必要としていたことから、当事者には夫婦になる意思はあるが、婚姻届を出せない場合が多くあり、内縁の夫婦が多く生じたといわれています。
  
 一方、「事実婚」は、夫婦別姓を実践するなどの目的や、男女の一方もしくは双方が再婚で、前の配偶者との間に子がいるなどの理由で、あえて婚姻届を出さないで共同生活を営む場合を言うことが多いようです。しかし、ここではあえて「内縁」と「事実婚」の区別はせずに説明をしていきます。なお、配偶者と事実上は離婚状態にあるのに、籍が抜けないまま、他の異性と同居をしてすでに何年も経っているような関係(重婚的内縁関係)については、かなり話が複雑になるので、今回は触れないことにします。
  
 さて、子については、前回説明したとおり、夫婦間の子(嫡出子)はもちろん、法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれた子(非嫡出子)についても、法定相続分に違いはあるものの、相続権はあります。しかし、夫婦に関しては、籍を入れた法律上の夫婦であれば、配偶者は常に相続人になりますが、「内縁関係」や「事実婚」の場合には、いかに長い間生活を共にしていたとしても、相手方(内縁配偶者)は相続人にはなりません。
  
 ちなみに、「内縁関係」であっても、相続以外の場面では、籍を入れた法律上の夫婦(法律婚)に準じて扱われることが多いのが、最近の潮流です。例えば、民法で定められている夫婦間の「同居・協力・扶助義務」、「貞操義務」、「婚姻費用の分担」、「日常家事の連帯責任」などは、内縁配偶者の間についても、法律上の夫婦に準じて負うことになります(判例)。さらに、特別法により、社会保険・社会保障の受給資格や、公営住宅の入居者資格についても、法律上の夫婦に準じて認められることもあります。
  
 一方、「夫婦の同氏」や、「姻族関係(例えば嫁姑の関係)」は、内縁関係においては発生しません。また、前回説明の通り、内縁関係の間で産まれた子は非嫡出子となるため、原則として親権者は母となり、その氏を称することになります。なお、父親との親子関係を発生させるには、認知が必要です。
  
 問題は「配偶者相続権」ですが、これは、相続関係は画一的に処理されるべきであるなどの点から、内縁関係においては認められていません(判例)。
  
 ちなみに、法律上の夫婦間の離婚に相当する「内縁関係の解消」の際に、責任が一方のみにある場合には、相手方に対して慰謝料の請求ができます。また、2人で築いた共有財産がある場合には、内縁の解消により財産分与の対象になります。当事者で話し合いがつかない場合には、内縁関係での財産分与請求の調停または内縁関係での財産分与請求の審判を申し立てることができます。
  
 つまり、分かりやすく言えば、内縁の夫が生きているうちに別れた内縁の妻は、夫名義の財産について財産分与の請求が出来るのに対し、内縁の夫が死亡するまで連れ添った内縁の妻は、夫名義の財産は一切受け取れないことになります。なんだか矛盾を感じますね。
  
 なお、亡くなった方に相続人が全くいない場合には、特別縁故者として一定期間内に請求を行うことで財産分与が認められることがあります。しかし、これはあくまで相続人が誰もいない場合であり、かつ手続きが煩雑で時間もかかります。
  
 では、内縁の配偶者が、相手方の財産を譲り受ける手段があるかというと、方法としては、以下の4つが考えられます。
  
1.籍を入れる(つまり、法律上の婚姻関係になる)
2.生前に財産の贈与を受ける
3.生前に財産分与を受ける(つまり、別れる)
4.財産を相手に遺贈する内容の遺言を書く
  
 まず、1については、そのように出来ない何らかの事情があるからこそ籍を入れていないというケースも多いので、実際には難しいかもしれません。2については税金の問題や、そもそも人間どちらが先に亡くなるかが分からないという問題があります。3についてですが、婚姻の解消であれば、「離婚届は出すけれど事実上の夫婦としての関係は続ける」ということもありますが、内縁関係を解消するとは、「外見上も夫婦でなくなる=完全に別れる」ことを意味します。相手が死にそうになってから「完全に別れる」というのは、心情的にも難しいですね。となると、4の財産を相手に遺贈する内容の遺言を書く方法しか、選択肢はないことになります。
  
 特に、家や預金などの財産のほとんどが内縁の夫名義であるような場合は、遺言がないと、内縁の夫が死亡した瞬間から、内縁の妻は生活の基盤をすべて失うことにもなりかねませんので、注意が必要です。
  
 もっとも、内縁関係にあった夫が突然死亡し、2人で築いた財産がすべて夫名義だった場合に「死亡による内縁共同体の解消に基づく財産分与は可能」であるとして、内縁の妻は夫の相続人に対して財産分与を請求できることを認めた判例もあります。しかし、相続人と揉めることや、裁判で決着がつくまでの間生活をどうするかを考えたときには、遺言は必須であるといえます。なお、本来の相続人に遺留分がある場合には、その点も考慮して遺言を作成する必要があります。

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