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森欣史

遺産相続の手続きと遺言書作成をサポートするプロ

森欣史(もりよしふみ) / 司法書士

金沢みらい共同事務所(森司法書士・行政書士事務所)

コラム

遺産相続では、生前贈与を受けた分も計算しなければならない?

2013年11月29日

テーマ:遺産相続争いの実態

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: お墓相続 手続き

 あるところに、二人の姉妹がいました。成人してから、姉は結婚して実家を出て行きましたが、妹は独身のまま実家に残り、親の身の回りの世話をしながら歳をとっていきました。一方、実家から遠く離れた家に嫁いでいった姉は子供も出産し、平凡ながらも幸せに生きていましたが、不景気で夫の給料が上がらず、パートで働いて家計を助けながら家事や育児もこなして忙しい毎日を過ごしていました。そのため、遠方の親の身の回りの世話については、ほとんど妹に任せきりにしていました。

 その後、姉妹の父親が亡くなりました。父親は遺言をつくっていませんでしたが、このときは、残された母親が、父親の財産をすべて相続するということで、とくに揉めることなく遺産相続の話はまとまりました。

 しかし、それから数年後に母親が亡くなり、母親も遺言を作成していませんでしたので、遺産相続について、姉妹で争うようになってしまいました。

 姉の言い分はこうです。自分の方が年上で喪主も務めており、また、正直なところ家計も苦しいので、亡き父母が居住し、現在では妹が住んでいる実家については妹が相続することに異存はないが、それ以外の現金や預貯金は自分が相続したいと。少なくとも、自分も民法の法定相続分で2分の1の権利があると。

 しかし、妹にも言い分があります。姉は、結婚して実家を出て行くときに、嫁入り資金として父母からたくさんのお金を受け取っている。さらに、姉の夫が新居を購入する際にも、多額の資金援助を父母から受けている。したがって父母が亡くなった際に残っていた財産を半分ずつわけるのは不公平だと。

 このように、亡くなった方から多額の贈与を生前に受けていた相続人のことを「特別受益者」といいます。そして、民法第903条では、「特別受益者の相続」については、以下のように定めています。
「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。」

 今回、母が死亡時に残していた財産の総額が2000万円だとします。そうすると、単純計算では法定相続分は姉も妹も共に2分の1の1000万円となりますが、仮に姉が母から生前に生計の資本として1000万円の贈与を受けていた場合には、いったんこの1000万円の贈与分を遺産の2000万円と合計して3000万円とした上で、これを2分の1で分けます。そうすると姉妹共に1500万円を相続することになりますが、姉は1000万円の贈与をすでに受けているため、今回の相続では、これを差し引いた500万円を相続し、妹は1500万円を相続することになります。

 また、姉が生前に贈与を受けていた金額が2000万円であった場合には、この2000万円と遺産の2000万円を合計して4000万円とした上で、これを2分の1で分けます。そうすると姉妹共に2000万円を相続することになりますが、姉は2000万円の贈与をすでに受けているため、今回の相続ではこれを差し引くと相続分がゼロになり、妹は2000万円全部を相続することになります。

 したがって、姉が生前贈与を受けた金額や遺産の額にもよりますが、法的には、妹の言い分にも理があります。また、妹は夫も子供もいないため、老後の生活資金として、お金は頼みの綱となります。

 あとは、姉妹同士の話し合いということになります。できれば円満に解決したいところですね。なお、ここでよく見落とされがちな点があります。それはこのあとのお話しです。それから月日が経過して、この姉妹が亡くなったらどうなるのでしょうか?

 姉が亡くなった場合には、(その時点で存命なら)夫と子供が相続人になります。一方、妹が亡くなった場合には、妹がそのまま結婚せず子供もいない場合には、結局は(その時点で存命なら)姉が相続人となります。姉が先に死亡している場合には、姉の子(妹の甥姪)が相続人となります。そうなると、妹が遺言で別段の定めをしない限り、結局は姉またはその子孫に、遺産は承継されることになるのですね。

 また、父母のお墓をどう守っていくかの問題もあります。妹に子孫がいない場合には、結局はその妹自身のお墓もふくめて、誰が守っていくかの問題もあります。

 遺産相続は、このように目先の損得や感情的対立だけではなく、その後のことも考えた対策が必要となってきます。

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