マイベストプロ岐阜

コラム

逆境を推進力に変えるしたたかさ

2023年2月2日

テーマ:気づきの窓

コラムカテゴリ:ビジネス

 「にっちもさっちもいかない」という言葉は、元々は、そろばん用語の「二進(にっち)も三進(さっち)もいかない」というのが語源です。「2でも3でも割り切れない」ということで、「商売が金銭面でどうにもいかない」という時に使われていました。それが次第に「身動きがとれない」という状況を表わす言葉になりました。

 産業精神科医の松崎一葉さんは、筑波宇宙センターの主任研究員として、宇宙飛行士のメンタルと向き合っています。8人の宇宙飛行士の訓練生を2週間、閉鎖空間に閉じ込めて、モニターを見ながら精神面の変化をチェックします。そしてストレスに強い上位3人が宇宙飛行士に選ばれます。

 宇宙船や宇宙ステーションという閉鎖空間では、「外側」にストレス解消の手立てがありません。「体調が悪いので早退します」と言うわけにはいかないし、週末に飲みに行ってストレスを発散することもできません。まさに「にっちもさっちもいかない」職場環境です。

 だから、従来の「病気になったらその原因を探してそれを取り除く」という「疾病生成論」の視点ではなく、「どんな環境にあっても自分の健康は自分で維持する」という「健康生成論」の視点でサポートしなければならないと松崎さんは言います。

 「健康生成論」とは、第二次大戦中にユダヤ人を大量虐殺した強制収容所から生まれた考え方です。あの時、ガス室に送られる直前で終戦を迎え、収容所から解放された人たちがいました。彼らの多くは戦後、精神的なストレスから健康を害し早死にしていました。ところがその中に大病をすることもなく健康的な生活を送り、自らの寿命を全うした人たちが複数いたことが、研究者の目に留まりました。

 「彼らは何が違うのか」

 この研究はその後、災害の被災地でも続けられました。不自由で不衛生な避難所暮らしの中で健康を悪化させる人もいますが、心身ともに健康を維持できている人たちがいます。その違いは何なのか、と。

 そんな中から生まれた一つのキーワードが「レジリエンス」です。「耐性」とか「復元力」という意味ですが、単に「ストレスに強い」ということではなく、「目の前の逆境に対する反発力を推進力に変えるしたたかさ」と松崎さんは語っていました。

 典型的な人物は小泉純一郎さんです。抵抗勢力が強かった郵政民営化に対し、その勢力をうまく利用して推進力に変え、見事に成し遂げてしまいました。

 レジリエンスを高めるために、松崎さんは二つの提案をしています。一つは、どんなことがあっても社員を守るという、組織の側が持つ揺るぎない姿勢であること。病気になって休職しても経済的な安定と社内の身分を保障するということです。

 もう一つは、組織が準備している福利厚生や研修・教育システムなどを社員が十分に使いこなすこと。「どうせこんな研修を受けても…」と思わず、「きっといい方向に向かう」と信じて臨むことです。どんなに一生懸命仕事をしていても、心の針がプラス1に振れているのか、マイナス1に振れているのか、その微妙な違いが、その人のレジリエンスに大きく影響するといいます。

 にっちもさっちもいかない状況に直面した時、逆境を越えてきた人たちに思いを馳せてみるのもいいかもしれません。『夜と霧』の著者ヴィクトール・フランクルはナチスの強制収容所の中で、その過酷な体験を本に著し、世界中で講演している自分をイメージしていたそうです。フィギュアスケートの羽生結弦選手も「自分は逆境、自分の弱さが見えた時が好き」と話していました。

 にっちもさっちもいかない状況にこそ意味があるのです。その意味を見い出せた人たちの生き様に、我々はいつも感動させられるのです。

この記事を書いたプロ

下裏祐司

事業と社員の成長を導く企業活性化コンサルティングのプロ

下裏祐司(株式会社飛泉)

Share

関連するコラム

下裏祐司プロのコンテンツ

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ岐阜
  3. 岐阜のビジネス
  4. 岐阜の経営コンサルティング
  5. 下裏祐司
  6. コラム一覧
  7. 逆境を推進力に変えるしたたかさ

© My Best Pro