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【知財】ビジネスモデル特許

2021年6月27日

テーマ:知的財産

コラムカテゴリ:ビジネス

コラムキーワード: ビジネスモデル

【知財】ビジネスモデル特許

6/19にTBS「がっちりマンデー!!(番組HP)」でビジネスモデル特許が紹介されました。
周囲の人から少し聞かれましたのでビジネスモデル特許の解説をしてみます。
「ビジネスモデル特許」という手法は名称からして、
自社独自に構築したビジネスモデルを特許権で保護し、独占的な実施を狙う方法かと思います。

雑学になりますが、
「ビジネスモデル特許」という言い方は「自称」になり、法令(条文)下での区分・種類にはありません。最も近い呼び方は特許庁が「ビジネス関連発明」という言い方をします(下記URL参考)。2000年頃をピークに出願件数が減少していましたが、下記URLの通り、近年増加傾向にあります。

特許庁 ビジネス関連発明の最近の動向について
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/biz_pat.html

この手法に火をつけたのがAmazon社の「1クリック特許」と言われます。
いくつか特許権がありますが、例えば、下記URLがその1つと言われています。
分割・シリーズの特許権が他にありますし、米国等の外国ファミリ出願も別にあります。
ちなみにこの特許権は満了しており、この満了に伴い、次の覇権を狙って出願が相次いでいるとも言われています。

特許4937434
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JPB_4937434/B6D15D4B7D524266868B41A1BB08DBFA/00/ja

一方で、日本国内でビジネスモデル特許関係で関係が深いのは下記の判決、通称ステーキ提供システム事件です。

平成29年(行ケ)第10232号 特許取消決定取消請求事件
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/058/088058_hanrei.pdf
特許5946491
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-2014-115682/52C9F01BF06EBC1B312C4603CB288AFD55C7C382D1892353B71AD76F393F4792/10/ja

乱暴に結論だけまとめますと
「いきなり!ステーキ」の店舗での提供システムに特許権が付与されています(2021年現在で調べたところ)。
実際に店舗を利用された方は分かると思いますが、当該店舗ではステーキを来店客の前で量り売り・提供してくれます。
これに用いる計量計(請求項上は「計量機」)・テーブル番号を示す「札」(請求項上の表現です。)等に特許権が付与されています。

上記の通り、ビジネスモデル特許を狙う場合、
現時点では技術のレベルと考えられやすい「新規性・進歩性」より、
特許権の保護対象とすべきかの「特許性」(「発明該当性」・「自然法則を利用しているか」等ともいわれます。)が論点になりやすいです。ただし、これは「現時点」ではという点を強調します。現時点ではビジネスモデル特許というのは珍しい分類になります。そのため、先願が少ないのです。言い方を変えれば、これから出願が増えれば先願が増え、新規性・進歩性のハードルも上がるということです。知的財産権は早い者勝ちの制度です。

また、ビジネスモデル特許を取得する上で「特許性」で引っかからないようにするにはポイントがあります。
それば「ビジネスモデル」自体でなく、必須な装置・道具を狙うという点です。
あるビジネスモデルを実現する上で必ず使わなければならない装置を特許で抑えるという点です。
私も実績がありますが、ここを抑えていれば通常の特許出願と変わらない運用です。
これらを上手く抑えた請求項を作成することで特許権が付与されやすくなり、
特許査定率が高くなってきたところにダメ押しのように上記の判例が出ました。

さらにビジネスモデル特許を加速させる要因にITがあります。
具体的には、IoT、AI、ドローン・自動運転等の技術です。
今までは人でないとできない作業がITで代替できるようになっています。
例えば、下記のような場面です。

この例ですと、従来、人の目でないと見えない・認識できないものがカメラ・AIの組み合わせで実現ができます。
同様に、今までは人でないと感じれないもの(例えば、温度・触感等です。)もIoT、つまり、センサ・通信の組み合わせで安く、長時間、大量に、瞬時にデータ収集できるようになります。
そして、AGV・ドローン・自動運転により人手がなくとも搬送が可能になります。
このように、ITにより人による作業を自動化させるビジネスモデルの変更が可能になります。このようなことをする背景にはIT以外に、新型コロナウイルスによる在宅勤務・テレワークの実現、少子高齢化による人手不足、事業承継等の問題も関係します。

ただし、上記のTVで紹介されていたビジネスモデルのように「工夫」が必要になります。
特許法上、AI等に現状の人の作業を置き換えるだけでは進歩性がないと判断されます(AIの特許についてはまた後日)。
上記のTVで紹介されていた企業もそうでしたが、本当に「思いつき」だけですと中々難しいです。ビジネスの基本である、マーケティング・研究・調査が根本にないものは中々新しい付加価値を生み出せません。ビジネスモデルの変更は「変える・置き換える」ことが目的でなく、「新しい付加価値を作るには?」が根本の目的でなければ上手くいきません。

従来、特許権は製造業のものと考えられてきました。
しかし、IT等の技術発展により、従来は無縁とされていた金融業・小売業・サービス業も特許権を確保するようになってきました。
これは良く考えれば、IT等の使い方で他者と差別化でき、技術力・特許権で参入障壁を作れるということにもなります。
何度も申し上げますが、知的財産権は早い者勝ちの制度です。「関係ない」と思っているうちに出遅れてしまうリスクには十分に注意して下さい。
以上

この記事を書いたプロ

坪井央樹

弁理士・中小企業診断士の資格を持つ知財関連の専門家

坪井央樹(武和国際特許事務所)

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