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太田英之(おおたひでゆき) / 司法書士

クローバー司法書士事務所

コラム

法的効力のない遺言ビデオ、それでも映像を残しておく方がいい理由とは

2019年12月20日

テーマ:遺言

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 遺言書 作成

遺言書は定められた書式にそって作成することで、法的効力を発揮します。では、映像による「遺言ビデオ」はどうでしょう?

結論から言えば、法的な力はありませんが、遺言書とともにビデオで自分の気持ちを伝えることで、家族が故人に思いを馳せ、相続についてもスムーズに進む可能性があります。今回は、遺言ビデオについてお話ししましょう。

遺言書の要件

遺言書は、自分の財産を相続人の「誰に」「何を」「どれくらい」渡したいかを指定するものです。あるいは、相続人ではなくとも、世話になった人(=誰に)に「何を」「どれくらい」遺贈したいかも示すことができます。

その目的は、第一には自分の意思を明確にするということですが、もう一つ大切なことは、遺言書に示した内容に至る経緯や遺言者の気持ちを明確にすることによって、相続時の争いを回避するということです。遺言書はそうした効力を持つものです。

ただし、相続時の遺産分割については民法上の規定がありますから、遺言書は遺言者の意思を明確にするものであると共に、法律上効力があるものでなければなりません。

法律上の効力とは、例えば自分で書く自筆証書遺言の場合、ある不動産を相続させたいと思えば、その不動産の登記簿謄本に記載された通りに間違いなく書く、またはその不動産の登記簿謄本のコピーを添付し、その不動産を法的に特定する必要があります。

「誰に」相続させるかについても、遺言者との続柄、戸籍上の氏名を記載し、法的に特定できるようにしておかなくてはなりません。

遺言書は、遺言者の「私的」なものであると同時に「公的」に効力のある文書である必要があるのです。

遺言ビデオについて

では遺言ビデオは、法律上の効力を持つものでしょうか?

結論を言えば、遺言ビデオには法的な効力はありません。

例えば、賃貸マンションを借りる契約を不動産屋で交わし、その模様をビデオで撮影していたとして、そのビデオが正式な契約、つまり、法的に効力のあるものになるかと言えばそうはなりません。
やはり、不動産屋から重要事項の説明を聞き、それに同意するのであれば署名・捺印し、法的に効力のある「契約書」を作成して初めて契約が成立します。

「自宅の土地と建物は長女・〇〇 △△子に相続させる」とビデオカメラに向かって話したとしても、法的な拘束力は生じません。相続発生後、長女〇〇 △△子さんがそのビデオをもとに相続手続きを行おうとしても不可能です。

これは遺言書には偽造などを防ぐ、あるいは、偽造を見破る方策が講じられているのに対し、ビデオ映像は編集等による偽造を防ぐ手だてが法的に確立されていないこと、また財産はすべて公的な文書によって特定されることによります。

例えば、不動産であれば登記簿謄本によって所有者が法的に特定されています。

映像で残すことのメリット

しかし、遺言をビデオ映像で残すことにメリットがないかと言えば、そうではありません。メリットはあります。

遺言書には、遺言書の「本文」と「付言事項」があります。「本文」は、遺産分割方法の指定など財産の処分・分配に関することになりますが、「付言事項」は、法定遺言事項以外の内容になります。具体的には、相続人に対する感謝の言葉や遺言を書いた経緯などを記載します。

例えばAさんが、遺言書の「本文」で、自宅の土地と建物を長女(姉)に相続させ、長男(弟)には預金と株式を相続させることにしたとしましょう。
しかし、自宅の土地と建物の評価額と預金・株式を比べると自宅の土地と建物のほうが、評価額が上回っているとします。

その際、遺言書の「付言事項」に
「病気の私と同居し長年尽くしてくれた長女〇〇子には大変感謝しています。それで自宅の土地と建物を長女〇〇子に遺したいと思います。長男◯◯もたびたびお見舞いに来てくれて、そのたびにうれしく思っていました。長男〇〇に遺す預金と株式はそう多くはないが、どうかわかってほしい。二人ともこれまで通り、姉弟仲良く暮らしてほしいと願っています」
と書き残すことで、父親の思いや願いを知った姉弟は遺産をめぐって争うことなく、父の死を悼むことができるかもしれません。

残念ながら「相続には争いがつきもの」と言われます。そして、その争いを防ぎ、円満な相続にするためには、遺言書の付言事項が非常に重要です。遺言ビデオは、遺言書の付帯事項の役割を果たすことになると言えるでしょう。

遺言書に書かれた文字を読むより、ビデオ映像による語りかけのほうが直接的に訴える力があります。文章には書き記せない切実な思いや感情がビデオ映像から読み取れるからです。

デジタル技術が進化し、誰でも手軽にビデオ映像を残せるようになった今、遺された家族への感謝やこれからどうあってほしいかなど、遺言者の思いを遺言書と併せて遺言ビデオに残すことは今後増えてくるかもしれません。そして、遺言ビデオによるメッセージは、遺された家族への励ましにもなるでしょう。

法的には効力がないとは言え、遺言ビデオは家族を結ぶ大切な役割を担っています。円満な相続を実現するために、遺言ビデオを検討してみてはいかがでしょうか。

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