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伊藤健司

企業の困りごとにワンストップで応える研修のプロ

伊藤健司(いとうけんじ) / 研修講師

オフィスT&C

コラム

カスタマーハラスメントから従業員を守る

2024年5月22日

テーマ:ハラスメント

コラムカテゴリ:ビジネス

顧客の理不尽な要求により、従業員の就業環境が害される「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。
近年、社会問題化してきた印象がありますが、厚労省は、カスハラから従業員を守る対策を企業に義務化する検討に入ったとのことです。労働施策総合推進法の改正案として、2025年の通常国会に提出する見込みです(2024/5/14北海道新聞より)。

厚労省は、平成24年から3~4年おきに「職場のハラスメントに関する実態調査」(以下「厚労省の調査」と記載)を行っています。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000165756.html
5/17に公表された令和5年度調査によると、過去3年間に企業に相談があったハラスメントの割合は、パワハラ(64.2%)、セクハラ(39.5%)、に次いでカスハラ(報告書では「顧客等からの著しい迷惑行為」と表現)が三番目の多さとなっています(27.9%)。多くの企業で、カスハラの被害が発生している様子が伺えます。
カスハラポスター1
2020年にパワハラ防止法が施行され、パワハラを許さない社会の気運が高まりました。カスハラについても同様に、法整備ができれば企業は様々な対応が可能です。厚労省の検討は、歓迎すべき動きと言えます。ただ、実際には法律の施行までには、ある程度の時間が必要です。
現時点では、現場で発生しているカスハラの対応を、個々の従業員スキルに依存している企業が多いと思われます。そうすると、中にはカスハラの被害を受けて、従業員の心身が疲弊していくケースもあるのではないでしょうか。そのような現状で、法律ができるまで時間がかかるとすると、従業員を守れるかどうかは、各企業の対応に負う部分が大きいと思われます。ところが、厚労省の調査によると、予防・解決にむけた企業の取り組みは、パワハラ95.2%、セクハラ92.7%に対し、カスハラは64.5%にとどまっているそうです。まだまだ取り組みは弱いと言わざるを得ません。

カスハラによって対応者が受けるダメージには(個人差はあるでしょうが)、さまざまなものがあります。厚労省の調査では、カスハラによって心身に受けた影響として、「怒りや不満、不安などを感じた」(63.8%)、「仕事に対する意欲が減退した」(46.1%)、「眠れなくなった」(16.7%)などが挙げられています。
個人だけでなく、企業が受けるダメージも大きなものです。精神的なダメージを受けた社員のモチベーションが下がったり、体調不良で休職したり、最悪、退職に至る可能性もあるなど、直接的に生産性への影響があります。また、「従業員を守れない企業」として非難されたり、世間からの信頼低下や、企業イメージの毀損にもつながるでしょう。さらに、それが店舗で発生したものであれば、来店する他の顧客への影響もはかり知れません。

企業が取り組むべきカスハラ対策

では、企業は具体的に、どんな取り組みをすればいいのでしょうか。
防止対策の一環として、厚労省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を発行しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf

このマニュアルでは、企業が具体的に取り組むべきカスハラ対策が、「事前準備」「発生時の対応」に分けて、詳細に説明されており、「事前準備」としては、以下の4点が記載されています。(以下、引用)

① 事業主の基本方針 基本姿勢の明確化 従業員への周知 啓発
・組織のトップが、カスタマーハラスメント対策への取り組みの基本方針・基本姿勢を明確に示す。
・カスタマーハラスメントから、組織として従業員を守るという基本方針・基本姿勢、従業員の対応のあり方を従業員に周知・啓発し、教育する。

② 従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
・カスタマーハラスメントを受けた従業員が相談できるよう相談対応者を決めておく、または相談窓口を設置し、従業員に広く周知する。
・相談対応者が相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。

③ 対応方法、手順の策定
・カスタマーハラスメント行為への対応体制、方法等をあらかじめ決めておく。

④ 社内対応ルールの従業員等への教育・研修
・顧客等からの迷惑行為、悪質なクレームへの社内における具体的な対応について、従業員を教育する。

実際、厚労省の調査においても、カスハラ対策にすでに取り組んでいる企業は、具体的な取組として上記に類する対策を挙げる企業が多いようです。

カスハラポスター2

社内教育は、どんな内容が有効か?

上記④では、従業員教育の内容として、
「顧客等からの迷惑行為、悪質なクレームへの社内における具体的な対応」が挙げられていますが、私はそれだけでは不十分だと思います。
以下にカリキュラムの例を挙げます。

カスタマーハラスメント対応研修(4時間)
① カスタマーハラスメントの基礎理解
・カスハラの発生状況 ・カスタマーハラスメントとは ・具体的な行為の例 ・カスハラの判断基準 ・企業が取り組むべき対策 etc.
まず、カスハラについて正しく理解することが大切です。他のハラスメント研修でもそうですが、まずは何がハラスメントであるかを正しく理解すること。それにより、カスハラでないものをカスハラととらえて必要以上に傷ついたり、もしくは自分の部下がカスハラの被害に遭っているのに気づいてあげられなかったり、といったことを防止できます。
② 顧客応対のポイント
・傾聴力を発揮して、事実確認をする ・共感を示す具体的な方法 ・お詫びをするときのポイント ・二次クレームを発生させない ・不当要求には毅然と対応する 【ワーク】あなたの職場で発生するカスハラは?
正しい顧客応対スキルを身につけることももちろん重要です。不平を口にするお客様を「モノ言うリピーター」にするか「モンスタークレーマー」にするかは、従業員側の応対スキルに負う部分も大きいです。また、応対スキルに自信を持てれば、お客様の前で、慌てずに、臨機応変に、落ち着いた対応をすることができます。
③ お客様の怒りで疲弊しないために
・皆さんが対処すべき怒りは… ・怒りのメカニズム ・お客様の満足は期待値で決まる ・お客様の感情を「俯瞰する」「スルーする」・自分を守るテクニック
カスハラによって、従業員の皆さんの心身が消耗されていくことを防ぐために、アンガーマネジメントと、レジリエンスの考え方をお伝えしたいです。カスハラの現場では、お客様の怒りだけでなく、従業員の皆さんの心にも怒りが生まれがちです。怒りについて理解することで、怒りの感情は扱いやすくなり、感情に振り回された対応をしなくて済むようになります。また、レジリエンスのスキルにより、必要以上に疲弊することを防止できます。


インハウスでの研修(訪問研修)も承ります。よろしければお問い合わせください。

かつて、「クレーム対応研修」が多く開催されていた頃、企業が向いていた方向性は「CS(顧客満足)」でした。カスタマーハラスメント研修においてもCSの視点はもちろん大切ですが、むしろ「ES(従業員満足)」こそが、今、求められる方向性だと思います。
カスタマーハラスメントから、従業員を守りましょう。

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