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コラム

自主回収の報告義務化による変化と 正しい食品表示をするための取り組み (3)

2023年9月4日

テーマ:HACCP

コラムカテゴリ:ビジネス

卸売業者や販売店などでの食品表示の間違いを防ぐための取り組み

 私は卸売業者、スーパー、製麺メーカーでコンサルタントの経験があり、食品表示の確認や作成に携わってきたが、それぞれの立場でどのように食品表示の間違いを防ぐための取り組みを行っているか、ご紹介したいと思う。
 まず卸売業者、スーパーの立場で食品表示の確認をする際には、メーカーや仕入先から商品規格書を提出していただき、その内容を基に食品表示が法的に正しいか、アレルギー表示や添加物表示に間違いがないかの確認を行っていた。
 このような規格書による確認は、他の卸売業者や販売店などでも一般的に行われており、実際に他社に商品を卸す際に、こういった書類提出を求められることは多くある。またeBASEなどのシステムを導入して、商品情報を取得している取引先もあった。このように求められる形式や内容の違いはあるが、事前に取り扱う商品の情報を取得し、食品表示や品質に問題がないか確認するという目的は、おそらく同じだと思う。
 規格書などで食品表示が正しいか確認する際には、まず法令で定められた必要な表示が漏れなくされているか、表示内容は適切かなどの確認から行っていた。食品表示のルールは、2015年4月の食品表示法の施行や、2017年9月の原料原産地表示に関する食品表示基準の改正、2019年9 月の特定原材料に準ずるものへのアーモンドの追加など、消費者への情報提供や安全の観点から、日々変わっていく。最近では、2022年3月30日 に遺伝子組換え表示の対象となる農作物に、「からしな」が追加された。
 直近では「くるみ」のアレルギー表示が義務になった 2023年3月9日、消費者庁より、食品表示基準の一部を改正する内閣府令が公表され、食物アレルギーの義務表示対象品目に「くるみ」が追加された。 これにより、食物アレルギーの義務表示対象品目(特定原材料)は、「えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)」の8品目になった。「くるみ」を含む食品のアレルギー表示は、2025年(令和7年)3月31日までが猶予期間とされているが、特定原材料は、血圧低下、呼吸困難や意識障害などの重篤な健康危害を発症するものなので、原材料にくるみを使用している製品については、速やかに表示することが望まれる。
 これら最新の法改正などの情報をキャッチして、食品表示に反映させていくことは、決して簡単なことではない。実際にメーカーや仕入先が、法改正を知らずに表示を改正しないまま販売しているケースもあり、規格書を確認する中で、これらの表示ミスを発見することもあった。
 さらに自主回収の理由の上位にある、アレルゲン(アレルギー表示)に間違いがないかは、規格書を確認する際に、特に気を付けていた。そうはいっても、基本的に規格書に書かれている内容を信じて、確認するしかないというのが実情ではあった。例えば本当にアレルゲンの「小麦」が含まれていないかなどを、検査で確認することはできるのだが、多種多様な製品や原材料を仕入れるにあたって、そのすべての食品に対して、すべてのアレルゲンが含まれていないか検査するというのは、現実的には難しいだろう。
 ただ規格書を確認する中でも、原材料の情報からアレルギー表示が正しいか整合性を確認することはできるし、気になる点があれば、仕入先に問い合わせをすることもあった。例えば、醤油には一般的にアレルゲンとして、小麦・大豆が含まれるが、規格書の原材料名の醤油のアレルギー表示の欄に「大豆」しか記載がないケースがあった。問い合わせしたところ、使用しているのが小麦を使用しない製法の「たまり醤油」だったため、規格書の間違いではなかったのだが、このように疑問点は確認しながら、可能な範囲でアレルギー表示の間違いがないか確認していた。
 他にもよくある間違いとしては、表1(※前回の記事参照)の不適切な表示で2番目に多い、食品添加物の誤りがあった。添加物は原則として、その物質名を表示 することになっているが、その使用目的(用途名) によっては、物質名と用途名を併記しなければならないケースがある。また同じ添加物でもその使い方によって、用途名が変わることがある。
 例えばビタミンCを添加物として使用している場合、用途名としては酸化防止剤や栄養強化などが考えられる。ビタミンCはお茶に添加されていることが多いので、お手元に商品があれば原材料名などを見ていただくと、イメージしやすいかもしれない。ビタミンCを、酸化防止剤として使用していれば「酸化防止剤(ビタミンC)」などの表示になっており、栄養強化として使用していれば、「ビタミンC」という物質名のみでの表示になるか、もしくは何の表示もされていない可能性がある。これは栄養強化の目的で添加物を使用した際には、その表示が免除されることがあるためだ。
 このように添加物表示は、その用途名や物質の種類によって表示が変わる複雑な面があり、規格書を確認する中で、その整合性の確認や正しい表示への修正をすることがあった。
 また規格書とは別で、特色のある原材料表示をしている製品においては、その産地証明や使用証明の書類提出を求める、または納品先から提出を依頼されるケースがあった。特色のある原材料表示とは、「山梨県産の巨峰果汁使用」、「有機小麦粉使用」「とちおとめ使用」のようなものが該当する。大まかなイメージとしては、その原材料を使用していることを表示することで、商品価値を高めるようなものが多い。
 こういった特色のある原材料の産地証明書類などが求められる背景としては、昨今では熊本県産のアサリにあったような、産地偽装などへの危機意識があると思われる。表1(※前回の記事参照)の自主回収理由の 不適切な表示の内訳に、優良誤認という記載があるが、熊本県産アサリ使用と表示していたアサリの佃煮に、実は外国産のアサリを使用していた場合は、正にこの優良誤認表示にあたる。こういった証明書類の提出を求めることも、不適切な表示を防ぐための対策の一つになるのだ。

この記事を書いたプロ

下裏祐司

事業と社員の成長を導く企業活性化コンサルティングのプロ

下裏祐司(株式会社飛泉)

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