「噛む」と、その不確かなシャケ〜噛むことの効用とは?〜
午前11時を少し過ぎた頃、僕はショッピングモールの3階、冷房の効いた休憩スペースのベンチで意識を半分だけ浮かせて座っていた。外は灼けるような陽射しで、アスファルトは薄く湯気を上げていた。スマホの天気予報を見ると今日の最高気温は35℃。
6月の終わりとは思えない暑さだった。駅から徒歩で10分程度の取引先に向かうつもりだったけれど、考えが甘かった。
歩いていると途中で体の芯が急に熱くなって、顔が普段よりかなり赤らんでいるのがわかった。どうやら僕の体は、急な猛暑にまだ対応できていないらしい。
ベンチの脇には小さな自販機があり、僕は反射的に冷たいレモンソーダを買って一気に半分飲み干した。
冷たい液体が胃に落ちる感覚は一瞬の救いだったが、すぐにその冷たさが逆流するように胃のあたりを苦く締めつけた。
「それ、あんまり良くない飲み方ですよ」
同じベンチに、いつの間にか女性が座っていた。
平日の昼間だ。
他にもベンチは空いていたのにその女性はなぜか僕のとなりに座ってきた。しかもいつ座ったのか僕は全く気が付かなかった。彼女は、大きなつばの付いた、様々な飾りのついた不思議な白い帽子をかぶっていた。
帽子の影で表情はよく見えなかったが、30代前半くらいの、涼しげで整った顔立ちの女性だ。
「胃がびっくりしちゃいますよ。こんなに暑い日に、急に冷たい炭酸を入れられたら」
「そうかもしれませんね」と僕は言った。「でも他に何を飲めばよかったのか分からなくて。」
彼女は帽子の縁を軽く指で押さえながら、小さく首を傾げた。
「こんな暑い日こそ常温の麦茶とか、緑茶が良いのよ。それか、甘酒にほんの少しだけ塩を入れたやつ。これが昔から伝わる、ちゃんとしたやり方よ」
「常温のお茶はわかるけど甘酒に塩?」
「甘酒は飲む点滴、って言われてるんですよ。甘酒は夏の季語ってしってました?体にすーっと入って、元気になる。アミノ酸や糖質の補給もできるので暑さでバテたカラダには最適なのよ。
でも・・・・がぶ飲みはだめよ。ちびちび、飲むのよ。ちびちび。。。」
彼女は優しく微笑みながらそう言って、小さな魔法の呪文を唱えるみたいに指を2回、空中で振った。
「あと、胃腸にはとうもろこしとか、はとむぎ、冬瓜なんかがいいのよ。
冷たいトマトとかキュウリは火を通す。
サラダよりスープ。意外と知られてないけど、それで体の中の“湿気”が抜けるのよ」
僕は黙って頷いた。きゅうりやトマトに火を通すなんて驚いたが、なぜか僕は反論する気にはなれなかった。
僕はそうするべきなのだ。
その声には冷房よりも冷たくて、でもそれよりもやわらかく、懐かしい静けさ。その姿と語り口は僕に小学校の時の若い女性の担任の先生を思い出させた。
不思議な感覚だ。
「それと、自律神経。人間の調子を決めるスイッチみたいなものです。昼間、5分でいいから目を閉じて深呼吸して。
夜はぬるめのお風呂にゆっくり」
僕はふと、自分がこの3日間、シャワーのみで風呂にすらまともに浸かっていなかったことを思い出した。その代わり、よく分からないSNSのリール動画を2時間くらい眺めていた。
「暑いときって、心にも熱がこもるんです。イライラしたり、夜眠れなくなったり。そんな時は、ジャスミンティーや香りの良いお茶を活用して。アロマオイルや御香など、香りを吸い込むだけで、気持ちが緩むわよ。」
「なるほど」と僕は言った。
「すごく色々なことに詳しいのですが、あなたは・・・・」と僕が言いかけると
彼女は少しだけ笑って、目を伏せた。そして、ゆっくりと立ち上がり帽子のつばがゆらりと揺れた。
「あ、そうそう、レモンソーダのあと、白湯を少し飲んでおいてくださいね。きっと、お腹がほっとするわよ。」
僕が「ありがとうございます」
と言おうと口を開く前に、彼女はベンチから立ち上がった。ショッピングモールの空調の音と、特に意味のないショッピングモール独特のBGMだけがその場に残された。
僕もベンチから立ち上がり、少し足取りの軽くなった体で、彼女が指さした自販機を改めて見直してみた。『白湯』
そんなものがペットボトルでも売っていることを初めて知った。飲んでみると、驚くほど優しい味がした。まるで、彼女の声のようだった。
そしてふと気づいた。
彼女の姿はもう、どこにもなかった。
【解説】急な暑さで体がついて行かない・・・そんな方も多いでしょう。
今回はそんな急な暑さに対応するためのご自愛方法。
水分補給は大切ですが、冷たい飲み物をがぶ飲みすると、胃腸の働きが落ちてしまい、バテやすくなります。おすすめは、常温の麦茶や薄めの緑茶
麦茶はミネラルを、緑茶はカラダの余計な熱を冷ましてくれます。緑茶に梅干しを入れるのもおすすめです。
さらに、食欲が落ちている方には、甘酒にほんの少しの塩を加えて飲むのも◎。「飲む点滴」とも呼ばれる甘酒は、エネルギー補給にもぴったりです。
そして、胃腸の負担を減らす食事を心がけましょう。
漢方では、「脾(ひ)」という五臓が胃腸の働きをつかさどり、湿気や冷えに弱いとされています。
冷たいものや油っぽいものの摂りすぎは、夏バテの原因になるのでご注意を。
食材としては、とうもろこし、はとむぎ、冬瓜など、体の中の余分な水分=「湿」を排出してくれる食材が特におすすめです。そして、トマトやきゅうりなどの夏野菜も、できれば軽く火を通して食べると胃腸にやさしくなります。
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