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河野創

働き方改革と海外人事労務に強い社会保険労務士

河野創(こうのはじめ) / 社会保険労務士

青山人事労務

コラム

中小企業にオーダーメイドの人事評価制度が必要な理由

2024年4月18日

テーマ:人事評価制度 離職率低下 利益率向上

コラムカテゴリ:ビジネス

1.いままでの人事制度とは


いままでの人事制度は、従業員の能力評価を中心に据え、評価結果に基づいて報酬や昇進を決定するシステムを採用していました。このシステムは、大企業では明確なパフォーマンス基準と透明性をもって効果的に機能します。従業員の努力と成果が公正に評価されるため、モチベーションの向上に寄与します。

しかし、小企業や中小企業では、社員一人ひとりの業務が多岐にわたるため、このような能力評価中心の制度が適切な結果をもたらすとは限りません。単一の指標による評価が個々の貢献や業務の実情を捉えきれず、新しい取り組みやチームワーク、経営方針に対する適応を軽視する傾向があります。

大企業の人事評価制度を中小企業にそのまま適用すると、従業員のモチベーション低下や生産性の低下を引き起こすことが多いです(Smith & Associates, 2020)。大企業特有の複雑で階層的な評価基準は、中小企業のフラットで柔軟な運営スタイルには不向きです。従業員の意見を反映する機会の欠如が、職場内のコミュニケーションや協調性を損なう原因となっています。

中小企業では、従業員からのフィードバックを取り入れ、彼らが新しいアイデアや改善提案を自由に表現できる環境を促進することが重要です。これにより、組織全体のイノベーションと成長を支えることができます。したがって、中小企業においては、大企業用の一律の評価制度ではなく、企業固有のニーズに応じたカスタマイズが必要です。

2.大企業の人事評価制度を真似てもうまくいかない理由



大企業の人事評価制度を中小企業でそのまま採用すると成功しづらいという事例は、多くの実際の状況からも確認されています。ここでは、その理由をいくつかの事例を通して詳しく解説します。

まず、大企業の評価制度はしばしば、従業員の個々のパフォーマンスに重点を置いた指標に基づいています。これは大企業での個人の成果が組織全体に与える影響を明確にするために役立ちますが、中小企業ではこのアプローチが必ずしも効果的ではありません。たとえば、ある中小製造業では、大企業型の評価システムを導入した結果、従業員が互いに協力するよりも個人の成果を競うようになり、チームワークが損なわれました。これは生産効率の低下を招き、最終的には顧客満足度の低下にもつながりました。

次に、大企業の評価制度は往々にして複雑で、多くの異なる業績指標を含んでいます。これが中小企業で採用された場合、従業員が評価の基準を完全に理解し、適応することが困難となることがあります。例えば、あるITサービス会社では、大企業から導入した詳細なKPI(重要業績評価指標)ベースの評価システムが従業員にとって過度に厳しく、その結果、モチベーションの低下と高い離職率を招いてしまいました。

さらに、大企業のシステムは、しばしば長期間にわたるキャリアパスを前提としていますが、中小企業では従業員のキャリアが多様で流動的なため、このようなシステムが適合しない場合があります。一例として、ある小規模なマーケティング会社では、大企業の評価システムを導入したことで、短期間で成果を出すことに注力するあまり、従業員が長期的なスキル開発を疎かにし、企業の成長潜在能力が低下しました。

最後に、大企業では個々の業績評価に基づく直接的な報酬システムが機能することが多いですが、中小企業では従業員が多様なタスクを担当するため、このような直接的な報酬制度が逆効果になることがあります。ある小売業では、大企業型のインセンティブプログラムを試みましたが、販売員が短期的な売上目標の達成に焦点を合わせすぎ、顧客サービスの質が低下するという問題が発生しました。

これらの事例から明らかなように、大企業の人事評価制度を小規模な組織にそのまま適用すると、多くの場合、組織の特性やニーズとのミスマッチが生じ、効果を発揮するどころか逆効果となるリスクが高まります。従って、中小企業にはその会社に合った、柔軟でカスタマイズ可能な人事評価制度の開発が求められるのです。

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3.中小企業にはその会社に合った人事評価制度が必要な理由


中小企業においてカスタマイズされた人事評価制度が必要な理由は多岐にわたります。これらの企業は特有の運営スタイル、組織構造、そして市場のニーズに応じて柔軟に対応する必要があります。以下に、これらの企業に特化した人事評価制度が必要な主な理由を詳述します。

まず、中小企業は従業員の役割がしばしば多岐にわたるため、個々の従業員が担当する業務の範囲が広いことが一般的です。そのため、大企業向けに設計された一律の評価基準を適用すると、実際の業務内容や従業員の努力が正確に評価されないことがあります。例えば、営業とカスタマーサポートの両方を兼任している従業員がいる場合、それぞれの役割に対する貢献度を適切に評価するためには、その両方を考慮した評価制度が必要になります。

次に、中小企業は変化に迅速に対応する能力が競争力の源泉となります。市場の変動や顧客の要望に柔軟に対応するためには、従業員が新しい挑戦を恐れず、創造的な解決策を自由に提案できる環境が求められます。このような環境を育むためには、創造性やイノベーションを奨励する評価指標を取り入れることが重要です。従来の成果主義に基づく評価から、プロセスや学びを重視する評価へとシフトすることで、従業員はリスクを恐れず新しいアイデアを試みることができるようになります。

また、中小企業では従業員の個々の成長と企業の成長が密接に連携しています。従業員が自己実現を果たし、スキルアップすることは、企業全体の能力向上に直結します。従って、個々のキャリア目標に沿ったスキル開発をサポートし、それに基づく評価を行うことが、従業員も企業も共に成長するためには不可欠です。

最後に、中小企業特有の家族的な職場環境を考慮すると、従業員間の協力やチームワークの促進も評価制度に組み込むべき要素です。協力的な職場文化を評価の一環として重視することで、従業員はお互いを支え合い、団結力を高める行動を取ることが奨励されます。これにより、職場全体の士気と生産性が向上し、組織としての連帯感も強まるでしょう。

これらの理由から、中小企業には、その独自の運営スタイル、従業員のニーズ、そして市場の要求に応じた柔軟な人事評価制度が不可欠であり、適切に設計された評価制度は企業の長期的な成功に大きく寄与します。

そして、中小企業における人事評価制度の設計で重要なのは、従業員とのコミュニケーションを強化することです。これには、定期的なフィードバックの機会を設けることが含まれます。フィードバックは双方向のものであるべきで、従業員が自身の業務についての意見や感じている課題を自由に表現できる場を提供することが不可欠です。これにより、評価制度がトップダウンの命令ではなく、従業員の参加と協力に基づくプロセスとなります。その結果、従業員は評価プロセスに対して所有感を持ち、より積極的に目標達成に取り組むようになります。

また、中小企業ではリソースが限られていることが多いため、効率的でコスト効果の高い評価方法を採用することも重要です。例えば、従業員の自己評価を取り入れたり、ピアレビュー(同僚からの評価)を実施することで、管理層だけでなく、より広範な視点からの評価が可能になります。これらの方法は、従業員の日々の業務に密接に関わる同僚の意見を反映するため、より公平で全面的な評価が行えるようになります。

さらに、中小企業においては、従業員が持つ多様な才能と潜在能力を見極め、これを最大限に活用することが成功の鍵を握ります。従って、従業員の能力に応じた役割の割り当てや、個々のスキルセットに基づいたキャリア開発の機会を提供することが望ましいです。人事評価制度はこれをサポートするためのツールとして機能し、従業員が自己の能力を理解し、それを仕事に活かす手助けをします。

最終的に、中小企業の人事評価制度は、企業文化と密接に結びついているべきです。企業の価値観、ミッション、ビジョンが評価基準に反映されることで、従業員は自身の仕事が企業全体の目標達成にどのように寄与しているかを明確に理解することができます。これにより、従業員は自分の仕事に対する熱意と責任感を持ち、企業全体としての一体感とモチベーションが高まります。

これらの考慮事項を踏まえることで、中小企業はそのユニークなニーズに適した人事評価制度を構築し、持続可能な成長と従業員の満足を実現することが可能になります。このようなアプローチは、従業員が長期的に企業に留まり、その能力を存分に発揮するための環境を提供することに寄与します。

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4.全社一丸となって取り組む社風づくりとは

会社にとって従業員が会社の経営方針に沿って一丸となって働いてもらえれば、経営者としてこれほどありがたいことはありません。しかし、このような社風を作り出すのは容易ではありません。良い社風とは、オープンなコミュニケーション、チームワークの尊重、新しいアイデアや挑戦を評価する文化など、会社が持つ理念や価値観が作り出す一種の「空気」や「雰囲気」です。これがポジティブなものであるほど、従業員の満足度や仕事に対するやる気は高まります。

会社での良い社風は、従業員が自分の意見やアイデアが聞き入れられていると感じることで、組織への帰属意識やエンゲージメントが強まることを意味します。また、チームワークを重んじる文化は、社員が協力して働くことを促進し、それぞれの強みを生かしたさらなる成果を生み出すことができます。新しいアイデアや挑戦を評価する文化は、イノベーションを促し、組織全体の生産性の向上に直接的に寄与します。したがって、企業が優秀な人材を引きつけ、長期間働いてもらえるような環境を整えることは、採用が困難な時代でも非常に重要です。

5.人事評価制度を導入するとなぜ社風が良くなるのか


適切な人事評価制度は、会社全体に公正感や信頼感をもたらし、良い社風の形成を促します。透明性の高い評価制度を持つ会社では、従業員は自分の努力や成果が適切に認識されていると感じることができ、これがモチベーションの向上につながります。また、公正な評価は従業員が会社に対する帰属心を強化し、より一層の努力を促します。

また、人事評価制度を通じて、従業員一人ひとりが担う役割とその貢献を正確に評価することで、競争至上主義や個人主義を超えた、協調と支援を促す健全な職場環境が育まれます。これにより、社員は共同で目標達成を目指す意識が高まり、組織全体の結束と効率が向上します。結果として、これらの改革は組織全体のパフォーマンス向上に直接的に繋がり、変化と競争の激しい市場で企業の地位を強化する助けとなります。

6.成果主義の欠点とは


成果主義は、個々の成果を基に従業員を評価し報酬を決定するシステムとして、多くの企業で採用されています。このシステムは理屈の上では公正で透明性が高く、高いパフォーマンスを促すとされています。しかし、実際には多くの問題点を抱えています。特に、成果主義を効果的に運用するための適切な体制や制度が欠けている状況で導入されると、問題が顕在化します。中小企業では、高すぎる達成目標によって社員はプレッシャーによりストレスを感じ、達成が困難なために意図的に低い目標を設定する傾向が見られます。これにより、社員のやる気の低下や将来の成長機会の喪失へと繋がることもあります。また、短期的な目標達成に重点を置くため、長期的な視点での会社の成長や発展を阻害することにもなってしまいます。

成果主義は個人主義に偏りすぎている考え方です。もっとチーム全体としての業績を上げることに取り組まないといけないし、それには人を育てることから始めることが必要になってきます。会社はチームとして他者と競争しているのだから、チームの競争力を高める努力をしなければなりません。にもかかわらず業績の悪さを個人の責任に転換してしまうような制度は良くはありません。あたかも鞭で脅して馬を走らせるみたいなことです。人は脅かされて能力を発揮し、できる動物ではないことぐらいは誰でもわかると思います。

7.成果主義の問題点を解決するための方法とは


成果主義の問題点を解決するためには、数値化された成果だけでなく、社員の貢献を多面的に評価する方法を取り入れなければなりません。具体的には、チームワーク、創造性、リーダーシップ能力など、数値では表現しにくい資質や行動を評価の対象とする必要があります。これにより、社員が短期的な成果に囚われず、長期的なキャリアの構築や自己成長に焦点を当てることができるようになります。また、組織文化を改革し、開放的で協力を促す環境を整えることも、成果主義の負の側面を緩和するために効果的です。これにより、社員は安心して挑戦できる環境の中で、より良い成果を出すことが可能になり、組織全体の生産性の向上に繋がっていきます。

個々の成果を評価することも重要ですが、それに先立ってチーム全体の連携と協力を強化することで、個人の努力がチームの目標達成にどのように寄与しているかを明確にすることができます。このアプローチは、従業員間の競争を促すのではなく、相互支援と協調を奨励することに重点を置いています。会社がチームワークを重んじる文化を育てることで、従業員は共同で目標達成を目指す意識が高まり、組織全体としての結束と効率が向上します。これが、多様な働き方にも対応できる人事評価制度の導入が、特に育児や介護などプライベートな事情を持つ若年層の社員にとって重要な理由です。

さらに、会社が発展するためには、社員一人ひとりが自身の目標を正しく設定し、それを達成する過程を経験することが不可欠です。正しく目標を設定するとは、従業員が自分の職務内で具体的かつ達成可能な目標を持つことを意味し、これにより従業員は明確な将来像と成長の機会を得ることができます。目標を達成するたびに自信と能力が向上し、これが個人のモチベーションと職務満足度を高めていくことになります。このようにして個人の成長が促されると、それが直接的に会社の発展に貢献し、従業員と会社の双方にとって好循環が生まれます。会社がこのような従業員への支援と機会の提供を通じて従業員の能力を引き出し、育成することは、長期的な会社間であなたの会社をナンバーワン企業へと引き上げていくことになります。

これらの措置は、個々の従業員だけでなく、会社全体のパフォーマンス向上にも直接的に繋がります。優れた人事評価制度は、ただ成果を測るだけでなく、従業員のポテンシャルを最大限に活かし、それを組織全体の目標と結びつけることができるべきです。結果として、これらの改革は組織全体のパフォーマンス向上に直結し、変化と競争の激しい市場で企業の地位を強化する助けになるのです。

成果主義に囚われず、より人間的で支援的な評価制度を採用することによって、従業員は自身の能力を完全に発揮できる環境を得られるようになります。これは、企業が持続的に成長し、社員が長期的に会社に留まるための基盤を築く上で非常に重要です。従業員が仕事に満足し、自己実現を果たすことができれば、それは会社全体の士気と生産性の向上に直接的に寄与するため、これが会社にとっても従業員にとっても真の勝利と言えるでしょう。

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