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谷光高

ゴルフの楽しさを多くの人に伝えるゴルフ場経営者

谷光高(たにみつたか) / ゴルフ場経営者

新有馬開発株式会社(有馬カンツリー倶楽部)

コラム

ギャラリーの声を「神の声」と信じて迷い、アマでマスターズ優勝という快挙を逃してしまったゴルファー

2016年1月21日 公開 / 2017年2月22日更新

テーマ:ゴルフの歴史やエピソード

コラムカテゴリ:趣味

自分の考えを貫くことの難しさと、何もかも人の意見を素直に聞いて実行することの危うさ、上手くいこうが行こまいが、結果はすべて自分の責任として帰ってきます。
それならば後悔しないよう、ぶれることなく自分のやり方を一筋に全うすべきであるというのは分かります。

でも岐路に立ったとき、周囲の意見に惑わされることなく、自分を貫くことは本当に難しいとことです。
そんな究極の状況におかれたゴルファーのお話しです。

ゴルフの祭典「マスターズ・トーナメント」

マスターズ・トーナメント(The Masters Tournは、アメリカ・ジョージア州のオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブを会場に開かれているゴルフのメジャー選手権のひとつ。
オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブは、ボビー・ジョーンズとゴルフコース設計家アリスター・マッケンジーとの設計によって、1934年にオープンしました。

ボビー・ジョーンズは、その自制心に富むプレー態度から、球聖(きゅうせい)と呼ばれたゴルフ史を代表する伝説のゴルファー。彼は終生、アマチュアを貫いたことでも有名です。

オープンしたその年、ボビー・ジョーンズは、友人で実業家のクリフォード・ロバーツとの共同企画により、トーナメントを開催したことからマスターズの歴史は始まります。
出場選手は前年度の世界各地のツアーでの賞金ランキング上位者、プロ、アマのメジャー優勝者など。招待資格を満たす名手(マスター)たちしか出場できないことから「ゴルフの祭典」として敬愛されています。

ボビー・ジョーンズも熱狂した1954年のマスターズ

1954年のマスターズは、当時の最強のプロゴルファーで最大のライバル同士だったサム・スニードとベン・ホーガンという二人が、唯一メジャーでプレーオフを戦った試合となりました。

この年までにサム・スニードは1949、1951年に、ベン・ホーガンは1952、1953年にマスターズで優勝していました。5年間に4度もタイトルを独占してきた同い年の二人が、遂に決着をつける時が来たのです。

しかし最終日、熱狂の大群衆に囲まれていた主役は、実はこの二人ではありませんでした。
前代未聞の快挙を期待している大ギャラリーの思いを一身に背負って、アマチュアのビリー・ジョー・パットンはひた走り続けていました。

ノースカロライナ生まれの眼鏡を掛けた陽気な青年ビリー・ジョーは、なんと2日目を終わって首位に立ったのです。3日目は崩れて首位のベン・ホーガンとは5打差になったものの、大ギャラリーに囲まれながら最終日をスタートしました。

ビリー・ジョーは、順調にプレーを続けて迎えた6番パー3、ここでなんとマスターズ史上2個目のホールインワンを記録したのです。これで波に乗ったビリー・ジョーは8番9番を連続バーディー。とうとう首位に並んだのです。

この快挙に興奮を隠せなかったのが誰あろう、ボビー・ジョーンズでした。
ビリー・ジョーに密着して声援を送る大集団の中には車椅子のボビーの姿までありました。後にも先にも球聖が役員席を離れたのは、このときだけと言われています。

「とても、じっとしていられなかったんだ!」
いかなる局面に遭遇しようとも、機械のような性格なショットを放ったボビー・ジョーンズにしては珍しく取り乱していました。

生涯をアマチュアで通し、アマチュアこそが真のスポーツマンだと考えていたボビー・ジョーンズにとって、マスターズでアマチュアが優勝する快挙こそが彼の夢でした。

ビリー・ジョーは、どこから見ても理想的なアマチュアでした。
決断の速さ、思い切りのいいスイング、外連味のないゲーム運び、拍手を受ける態度も初々しく、失敗してさえ爽やかに振舞って微笑を絶やさず、「次のショットで頑張るさ」と明るく言い放っていました。

ボビー・ジョーンズを尊敬する彼は、プロ転向の話題にも耳を貸さず、アマチュアは名誉のために戦うのが本文だと試合前にコメントしていました。
球聖にしてみれば、目の中に入れても痛くない青年と言えました。

ギャラリーの声を「神の声」と信じたビリー・ジョー・パットン

最終日の前半を終え、この時点で雲の上のベン・ホーガンとサム・スニードを追い抜いてトップに返り咲いたのだから、オーガスタの森全体が沸き立ったのも無理のない話です。
熱狂した群衆によって暴動のような騒ぎになることを恐れ、ボビー・ジョーンズの片腕クリフォード・ロバーツは目立たないように100人の警察官の配置を依頼していました。

13番475ヤード、パー5の名物ホールで、セカンドショットでツーオン狙おうとしたその時、

「刻め!慎重にいけ!」と群衆が叫びました。

ビリー・ジョーはその声を無視し、チャンスがあれば攻めるのが身上と即座に決断、ツーオンを狙ったボールは落胆とどよめきと共にクリークに消えていきました。

ボールのとこえろに行ってみると、浅い岸辺でボールを打つのには不自由のない状態でした。
スパイクと靴下を脱いでグリーンを狙おうとしていたその時・・・
彼の意図を察した群衆が、またまた大合唱。

「無理するな!そこから狙うのは無茶だ!」

初めて彼の中に迷いが生じました。

「もし先刻のアドバイスを真剣に受け止めていれば、クリークにはまることはなかったかもしれない。オーガスタのギャラリーはゴルフ通ばかり。彼らのいうのが正しいかもしれない・・・」

そう思った彼は、ボールを拾い上げると、1罰打を払ってドロップ、ボギーで切り抜けました。

「いいぞビリー!それが正解だ!」

ビリー・ジョーは
「ここに至っては、慎重さが最良の結果につながったと考えると、大合唱こそ“神の声”。その声に導かれるまま、プレーするほうが得策ではないか」
と信じ始めていました。

15番、520ヤードのパー5で放ったドライバーは最高のショット。

歩きながら、彼は悩んでいました。
「ツーオンを狙うか、もしくは、手前に池があるのでアイアンで刻んで堅実に攻めるか・・・」

いまのところ1打差のトップ、ここは勇気を持って慎重に攻めるべきであると、7番アイアンを手にした瞬間、突然ギャラリーたちが一斉にわめき始めました。

「いけ!弱気になってどうする!いまこそツーオンだ!」

ビリー・ジョーはまた考え込んでしまいました。

「今こそ、ツーオンだって?」
「ということは、後ろのトッププロ2人のどちらかが追いついたとしか思えない。だからこそ、ツーオンを狙って突き放せ!と叫んでいるのだ。なにしろギャラリーの声は“神の声”、これまでのアドバイスはすべて的中しているじゃないか」

「よしここは勝負だ!」
と長いクラブに持ち替えたビリー・ジョーが放ったボールは、大声援に押されて一気に舞い上がった後、グリーンに届いたかに見えました。

不意に歓声が悲鳴に変わった次の瞬間、彼の目にもはっきりと水柱が見えました。
ビリー・ジョーもうなだれましたが、それ以上にボビー・ジョーンズが深くうなだれていたそうです。

結局、この年のマスターズの覇者は、翌日のプレーオフで、ベン・ホーガンと1打差で、サム・スニードがグリーンジャケットを手にしたのでした。

2011年、当時アマチュアだった松山英樹はトータル1アンダー27位でローアマチュアとなり大健闘しましたが、ボビー・ジョーンズの思いを遂げるアマチュアゴルファーは現在に至る今も出てはいません。

◆参考文献
「ゴルフの処方箋」夏坂健著:幻冬舎文庫

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